波紋呼ぶ北企業との物々交換構想、国連制裁対象のため計画撤回


韓国紙セゲイルボ

 李仁栄統一部長官が、「物々交換形式の交易を通じて、南北交流協力の扉を開きたい」という野心に充ちた構想が最初から動揺している。韓国民間団体と物々交換をする相手方として名指しされた北朝鮮企業が国連安保理の制裁対象であることが分かったためだ。

2018年9月18日午後、首脳会談に臨むため平壌の朝鮮労働党中央委員会本部庁舎で握手を交わす文在寅韓国大統領(左)と金正恩同党委員長(平壌写真共同取材団)

2018年9月18日午後、首脳会談に臨むため平壌の朝鮮労働党中央委員会本部庁舎で握手を交わす文在寅韓国大統領(左)と金正恩同党委員長(平壌写真共同取材団)

 北朝鮮は国際社会で文字通り“公共の敵”であるが、韓国の統一部だけが“同じ民族”という感傷に陥って、ことを大きく誤らせるところだったという指摘だ。

 統一部は24日、南北物々交換事業の一環として推進していた北朝鮮の高麗開城人参貿易会社との事業計画を撤回したと国会情報委に報告した。

 この事実は同日午前、国会情報委に対する統一部の非公開の業務報告が終わった後、同委の与野党幹事である共に民主党の金炳基、未来統合党の河泰慶議員によってメディアに伝えられた。

 統一部の国会情報委での業務報告には最近就任した李仁栄長官に代わって徐虎次官が出席したものと言われている。

 今回の撤回は北朝鮮の高麗開城人参貿易会社の正体を勘案すれば決まりきった結末だった。当初、統一部が構想したのは、韓国民間団体である「南北経総統一農事協同組合」と北朝鮮の高麗開城人参貿易会社との間の物々交換だった。韓国で生産した砂糖を北朝鮮で製造した人参酒と対等交換をすることが事業内容だ。

 ところが韓国側のパートナーに該当する北朝鮮高麗開城人参貿易会社という会社は国連安保理の制裁対象だ。表面では“貿易会社”というもっともらしい看板を掲げているが、これは偽装で、実は北朝鮮労働党「39号室」傘下の機関である。

 北朝鮮軍部の管理の下にあると知られている労働党39号室は金正恩委員長など北朝鮮最高幹部層が使う統治資金を管理する組織だ。しかも核心の任務は北の最高幹部層が消費するぜいたく品などを海外で購入する外貨を稼ぐことだという。

 国家情報院は最近、国会情報委への非公開業務報告で、北朝鮮の高麗開城人参貿易会社のこのような実体を詳細に説明したという。河泰慶議員は、「統一部は国家情報院に対象企業について、まともに確認していなかったようだ」として、「該当事業は完全に撤回されたものと見るべきだ」と話した。

 これと関連して、保守野党のある関係者は、「韓国政府は“民族”という感傷にひたって北朝鮮を高く評価するが、国際社会で北朝鮮は核兵器とミサイルで世界平和を惑わす“不良国家”にすぎないという点が如実に表れた」と皮肉った。

(キム・テフン記者、8月25日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

「物々交換」は氷山の一角か

 韓国で国連といえば、かつて韓国動乱で自国を救ってくれた“恩人”で、事あるごとに「国連」「UN]と無条件に絶対視する傾向がありながら、その国連が決めた決まり事「対北制裁」を尊重するどころか、まるで、抜け穴を突いて裏をかこうとしている。いったいどういう心理なのか。

 李仁栄統一相は「物々交換」ならば制裁に抵触しないとみて、それで押し切れると考えていたのだろう。しかし、取引相手の正体は隠しきれなかったようだ。しかもそれを暴いたのが国家情報院。最近の人事で左派の重鎮、朴智元氏を院長に据えたのに、政府(統一部)の思惑を潰(つぶ)す調査結果を出した。取引物はたかだか砂糖と人参酒だ。うかうかしていれば、疑われることなく貿易は続けられていただろうが、相手企業が「労働党39号室」関連となれば、話は違ってくる。記事中にもあるように、金正恩氏のぜいたく品、権力固め維持に使う賄物を買う資金をつくるところだ。

 こうした誤魔化しで想起するのは高純度フッ化水素など半導体やディスプレイの主要素材の規制だ。戦略物資が“横流し”されている疑いがあった。輸出量に対して製品の生産量が釣り合わない。未使用の分はどこへ流用されたのかを問うた。もし、これが北朝鮮など「ならず者国家」に渡り、兵器に使用されれば、輸出元の日本の責任にもなる。未だに対韓輸出管理の厳格化措置が解かれていないのは韓国の答えが納得できないからだ。

 この事例を見ても、文在寅左派政権にとって国際規範などは南北交流の前には何の制約にもならない。そうすると、摘発されない裏の対北支援がまだまだあると見ざるを得ない。

(岩崎 哲)