米中新冷戦の現実化に揺れる韓半島


韓国紙セゲイルボ

中国有利なら一層不安定に

 米国と中国間の新冷戦が現実化している。両国が新型コロナ、香港、貿易、南シナ海、人権、サイバーなど全分野で衝突コースに突き進んでいる。

トランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席(AFP時事)

トランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席(AFP時事)

 特に11月の米大統領選挙が近づいており、双方が対話と交渉の側へ方向を切り替える可能性は殆(ほとん)どない。トランプ米大統領は“中国叩(たた)き”以外に有効な得票戦略がない。民主党の大統領選候補バイデン前副大統領も中国に柔軟な態度を見せれば大きく失点することをよく知っている。米国で中国は第1の警戒対象だ。

 米中新冷戦はトランプ大統領の再選戦略だけで終わらないだろう。バイデンが当選しても米中関係の再調整は避けられず、この過程で両国が熾烈(しれつ)な攻防を継続するからだ。

 新型コロナ事態の中、新冷戦は理念とシステム対決の様相を帯びている。残念ながら米国の自由民主主義システムは新型コロナへの対応で中国の独裁共産主義体制にみごとに押されている。中国の対策は決して望ましいものではないが、少なくとも無策で感染者や死亡者が山のように増えつつある米国よりはましだという中国の主張には反論しにくくなった。

 さらに深刻な問題は、新型コロナ感染拡大により米国が経済分野で中国に圧倒される可能性があるという点だ。米国はすでに景気低迷の泥沼にはまり、感染拡大を抑えるために、また経済活動を凍結しなければならない絶望的な事態に直面している。米国と違い中国は新型コロナを遮断し、第2四半期の国内総生産(GDP)成長率が3・2%に反騰する“V字”回復に成功した。

 米中新冷戦で中国が有利な立場を占めるほど、韓半島情勢はより一層不安定になる可能性が大きい。米国が中国に影響力を行使できなければ、北朝鮮の核・ミサイル問題を平和的に解決できる唯一の手段である“中国カード”が消える。北朝鮮は中国の圧力から抜け出して、核・ミサイル挑発で韓半島と国際情勢を振り回すことは明らかだ。

 この時、トランプとバイデンのうち誰が勝っても北の核・ミサイル問題解決や韓半島の平和定着には役に立たないシナリオが展開し得る。トランプが再選すれば、すでに不覚を取った北朝鮮問題にこれ以上関心を傾けないだろうし、北朝鮮は昨年1月、バイデンを“狂犬”と呼んで侮辱した。バイデンにはオバマ政府の失敗策“戦略的忍耐”へ回帰する道以外に他の選択の余地があまりない。

 韓国政府は最近、対話派で外交安保チームを再整備して、南北関係の最後の勝負に出ようとしている。この時、中国が新冷戦で有利になると、韓国の選択に決定的な影響が出る。米国が弱いほど、韓米関係が弱いほど、北朝鮮に有利な構図が形成されるのだ。

 トランプ政府が在韓米軍縮小で脅しても、韓国が韓米同盟の枠組みを強固に守っていれば、南北関係の膠着(こうちゃく)状態を打開しようとする試みも可能だろう。

(鞠箕然ワシントン特派員、7月21日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

《ポイント解説》

強固な米韓同盟こそ救い

 米中新冷戦で中国が優勢になると、韓国はえらいことになるという危機感の溢(あふ)れた記事だ。しかも米大統領選でトランプ大統領、バイデン前副大統領のどちらが勝っても、朝鮮半島への関心と関与は薄くなり、これで半島情勢は中朝に主導権を持って行かれる。

 さらに、ここに来て、文在寅政権は対北ラインを親北派で固めた。金大中大統領の訪朝の際、裏で工作した朴智元(パクチウォン)元文化観光部長官を国家情報院長に起用している。大ベテランの再登板は文政府の「最後の勝負」への覚悟の度合いを示すものだ。

 統一相には李仁栄(イイニョン)元与党院内代表。左派学生運動を主導した全国大学生代表者協議会(全大協)の初代議長で、金大中氏が政界に引っ張った。そして大統領府外交安保特別補佐官には任鍾晳(イムジョンソク)元秘書室長(官房長官に相当)が就いた。国家保安法違反で服役した前歴がある筋金入りの左派活動家である。

 この布陣は米国の朝鮮半島専門家を騒がせているだろうが、再選戦略に没頭しているトランプ大統領の関心を引き付けるほどにはなっていない。むしろ文大統領は、だからこそこのタイミングを狙ったのかもしれない。

 保守紙と位置付けられるセゲイルボで二十数年にわたってワシントン特派員を務める鞠箕然氏の視点は、運動圏が席巻していたキャンパスで育ってきた最近の同紙の記者たちとは一味違う視点を投げ掛けている。米韓同盟を強固に守っていくことだけが、膠着(こうちゃく)状態の南北関係を打開する道だ、という極めてまともな正論だ。文末に最も伝えたいことがくる韓国記事の典型でもある。

(岩崎 哲)