トランプ政権 中国系番組の対米放送中止を
メキシコのラジオ局に命令
「抜け穴」利用認めず
トランプ米政権は先月下旬、中国政府による影響が懸念されるメキシコのラジオ放送局に対し、米国への放送を中止するよう命じた。同放送局は、中国政府の支配下にあるとされるメディアが制作した番組を国境を越えて米国の視聴者向けに放送することで、外国メディアに対する米国の規制を回避していた。
(ワシントン・山崎洋介)
米連邦通信委員会(FCC)は先月下旬に、メキシコのAMラジオ放送局に対して、米国への放送を終了するよう命じた。実際には中国政府の支配下にあるとみられるフェニックス・テレビの子会社フェニックス・ラジオが番組を制作していたが、その事実をFCCに明らかにしていなかったのが理由だ。
フェニックス・ラジオはカリフォルニア州ロサンゼルス近郊のスタジオで同州の視聴者向けの中国語番組を制作していたが、あえてメキシコの放送局を経由させたのは、外国メディアに対する米国の規制を回避することが目的だったとみられる。
メキシコのAMラジオ放送局は2018年に中国系米国人が所有するニューヨークの投資会社が購入した後、米国に放送するために必要な免許をFCCに申請。審査の結果が出るまでの間、一時的に放送を許可されていた。
一方で、同投資会社は、フェニックス・テレビと結び付きがあることが報じられたことから、テッド・クルーズ上院議員(共和党)らは放送局が中国の宣伝活動に利用されることへ懸念を示していた。
米国内で番組を制作するメディアが外国の放送局の電波を介して米国内の視聴者向けに放送を行う場合にも、FCCから免許を得る必要がある。しかし、通常は当然のように認められるものとされ、今回のように却下されることは異例のことだ。
米国務省は2月と6月に、中国国営新華社通信や中国共産党機関紙の人民日報など合計九つの報道機関を中国共産党の支配下にある宣伝機関と認定し、従業員や資産に関する報告を義務付けた。
今回のFCCの決定にも、中国の宣伝工作に対する警戒感がトランプ政権内で高まっていることが背景にある。
フェニックス・テレビをめぐっては、4月上旬にホワイトハウスの会見で、所属する女性記者とトランプ大統領が交わしたやりとりでも注目を集めた。
指名を受けた同記者が米国に医薬品や医療品、マスクを支援する中国の取り組みについて語り始めたことに、トランプ氏は「質問というより主張のようだ」と困惑気味に指摘。その後も米国に中国との協力を求める崔天凱駐米中国大使の発言を引用する記者に、トランプ氏は「あなたは中国政府のために働いているのか」と聞き返した。
これに対して同記者は、フェニックス・テレビは「香港を拠点とする民間企業」だと答えた。しかし、民間企業と言っても、実際には中国政府の支配下にあることが指摘されている。
国際NGO団体、フリーダムハウスのサラ・クック上級アナリストは、17年の議会証言でフェニックス・テレビは、中国政府と関係の深い元軍高官によって所有されており、「中国政府が直接的に所有しないプロパガンダ媒体の一例」だと指摘。米シンクタンク、フーバー研究所は18年の報告書で、同テレビ局は「中国政府によって完全に支配されている」とし、中国の「準公式メディア」だと位置付けた。
クルーズ上院議員は今回のFCCの決定について、声明で「FCCは非常に機密性の高い情報に基づいて、実際にフェニックス・テレビがスタジオを密(ひそ)かに使用してラジオ局のコンテンツを制作したことを突き止めた」と評価。その上で「米国は中国が規制の抜け穴を悪用してその宣伝を流すことを許可しないという重要なメッセージを世界に送った」とその意義を強調した。