「今日の香港」拒否し「明日」を選んだ台湾
“中国式統一”への恐怖が拡大
1949年、圧倒的な戦力差にもかかわらず蒋介石が率いる国民党軍は結局、毛沢東の赤軍に敗れて台湾へ逃げた。当時、蒋介石の軍隊は公式には約250万人だった。また米国が提供した最新武器で武装していた。一方、赤軍は1933年の大長征当時、8万人程度と知られていた。武器もやはり貧弱だった。
国民党軍が赤軍に負けたのは蒋介石の無能と腐敗のためだ。デイビッド・ハルバースタムの「ザ・コールデスト・ウィンター」には無能で腐敗した国民党の話が赤裸々に出てくる。これを知りながらも「底の抜けた瓶に水を注ぐ」式で国民党軍を支援した米国の失敗した政策にも言及している。
今月10日から13日、台湾を初めて訪れた。総統選取材のためだ。“日本語を使う中国人”らしく人々は親切だった。中国とは違った自由民主主義体制特有の余裕と和やかさがあちこちで感じられた。
大勢はすでに蔡英文総統に傾いていた。気になったことは台湾人の底辺の考えだ。2018年の地方選挙で蔡総統の民進党は惨敗した。蔡総統の政策に反対する台湾世論が大きかったという傍証だ。1年半後、戦いの形勢が逆転した。それも蔡総統は歴代最多得票という記録も得た。学生、教授、食堂の主人、外交官、在外台湾人、タクシー運転手など口を揃えたように言う。「中国式統一」に対する恐怖だ。
空港からホテルへ行くタクシーの中で運転士と話した。彼は「今日の香港が明日の台湾になり得る。今、随所で“亡国危機論”が大きくなっている。共産党が提案することを信じてはならない」と言った。
11日朝、投票場を訪ねた。4、5人の女子大生が一緒に投票にきていた。彼女たちは、「韓国瑜が嫌いだ。対外政策の立場が曖昧で中国と近い。私たちは蔡総統を中心に結束しなければならない」と語った。また、「デモを制圧する香港の警察官が衝撃的だった。どうしてそんなに暴力的に学生たちに対することができるか」として、香港の状況に対する怒りを露(あら)わにした。
11日夜、蔡総統の再選が確定した台北の北平東路は祝祭を彷彿させた。選挙が終わった午後4時直後から支持者らが続々と集まってきた。太鼓の音と歌声、歓声に耳が痛かったし、人波の中に巻きこまれて動くことも大変だった。数千、数万の台湾人らが集まって、蔡総統を連呼した。家族で来ている支持者も多かった。両親とともに来た子供たちが周囲の人々が叫ぶスローガンに倣って叫ぶ姿が微(ほほ)笑ましく見えたりもした。
蔡総統の再選確定により、中国の対台湾政策が注目されている。「香港のように台湾を完全に跪かせる」と、さらに強力に台湾を圧迫するとの観測が多い。中国の政策が成功するのか疑問を感じる。
(イ・ウスン北京特派員、1月20日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
南北関係投影させた台湾選挙
東アジアでは未だに体制の戦いが続いている。自由主義対共産主義だ。自由主義圏に住む者は共産主義世界に移ろうとはしない。人間は本質的に自由を求めるからだ。ところが、この体制の違いから目を背け、より不自由な体制の側に寄っていく政治勢力がいる。弱肉強食、放縦な自由世界より統制された平等な社会に理想を見るからだ。
しかし、しばしばこの理想主義は人間の「悪」を見逃し、思想の罠に陥る。自由が抑圧され、力ずくで圧し潰(つぶ)されるサンプルを見せられてもなお、理想ばかりを信じたがる。だが、悪が理想主義の仮面をかなぐり捨てて素顔をのぞかせた時ぐらいは、いい加減、人間は悟るべきだ。香港事態をみた台湾の人々は総統選挙でいわば当たり前の選択をした。まともな判断をした人が多かったことは「過去最高」の得票数が物語っている。民心は“フェイクニュース”にも惑わされず、宣伝工作にも揺るがなかった。
次に選挙を控えているのは韓国だ。4月に総選挙が行われる。与党は多数を取って憲法改正を目論(もくろ)んでいる。北朝鮮とより一層接近した体制を準備したいからだ。そして自由世界から軸足を共産世界に徐々に移そうとまで、今の政権は考えている。できれば選挙前に金正恩労働党委員長の韓国訪問を実現させたい。彼が半島を焦土にした独裁者の孫で、親族を平然と殺す者であっても、沿道で歓迎する韓国民の姿が想像できてしまうのが恐ろしい。選挙に与える影響は大きいだろう。
そうした情緒が容易に想像できる韓国の残念な点は「台湾にとっての香港」がないことだ。この選挙ルポは「北京特派員」として書けるギリギリの線なのだろうと理解する。
(岩崎 哲)