「移民危機」再来の恐れ、左派政権樹立目論むソロス氏

マケドニア人ジャーナリスト チリマノフ氏に聞く

 マケドニア人ジャーナリストのツヴェティン・チリマノフ氏に、同国の政治的混乱の背景を聞いた。(聞き手=編集委員・早川俊行)

米国の大富豪ジョージ・ソロス氏は、自らの組織を通じ、マケドニアにどのような影響を及ぼしているのか。

チリマノフ氏

 ツヴェティン・チリマノフ氏 マケドニア主要紙記者、英BBC放送マケドニア特派員、ジョルゲ・イワノフ大統領の報道官、通信社マケドニア情報局(MIA)ワシントン特派員などを経て、現在、MIA英語ニュースエディター。

 ソロス氏のオープン・ソサエティー財団マケドニア支部(FOSM)が活動を始めたのは、マケドニアが共産主義を放棄し、旧ユーゴスラビアから独立した1990年代前半からだ。FOSMは共産主義時代の元幹部らに資金を提供してメディアやシンクタンクを設立させ、政治支配を維持させようとした。

 FOSMは旧共産党の野党・社会民主同盟連合と緊密に連携し、メディアキャンペーンや抗議活動を展開している。これはNGOの役割を逸脱するものだ。NGOとはその名の通り、非政府組織であって政権を目指すものではない。だが、FOSMは社会民主同盟連合と共に権力を握り、政権をつくろうとしている。

 FOSMと社会民主同盟連合は近年、保守派の与党・マケドニア民主党連合を打倒するため、暴力的な抗議活動や違法な盗聴、海外の左派政権と連携した圧力など大規模なキャンペーンを展開している。これが過去2年間、マケドニアに政治危機をもたらした。

オバマ前米政権の関与は。

 FOSMと社会民主同盟連合は、海外の左派政権から国際的な支援を得てきた。残念なことに、その中心がオバマ政権だった。オバマ政権はソロス氏系の団体に資金を提供し、それを政治活動やメディア設立などに使わせてきた。

 米国際開発局(USAID)の助成金は通常、正当な目的のために提供されるが、助成金を受け取った団体は、米国の反警察運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」のような暴力的な抗議活動の組織化や、票の買収を含め社会民主同盟連合を支援する政治活動に深く関与している。

オバマ前大統領が起用したジェス・ベイリー駐マケドニア米大使が、社会民主同盟連合を支援したと言われるが、本当か。

 具体的な証拠はないが、昨年の議会選で社会民主同盟連合はアルバニア系住民から7万票を獲得した。これはアルバニア系に大きな影響力を持つ米大使館の強力な支援なしでは起こりえない。

 ベイリー大使の声明や政策的立場は、社会民主同盟連合を支持するものばかりだ。また、USAIDが社会民主同盟連合寄りのメディアやNGOに独占的に資金提供したことは、米大使館が特定政党を支持していると言わざるを得ない。

 ベイリー大使の露骨な党派的姿勢は2国間関係を悪化させた。多くのマケドニア国民は今や米国を公正な仲裁者とは見ていない。

米共和党の一部議員がこの問題の調査と是正を求めている。

 USAIDによる政治目的への不正な資金提供は許容できないとして、共和党議員が調査を開始し、トランプ大統領にベイリー大使の解任を要求している。また、米保守派団体「ジュディシャル・ウオッチ」は、情報公開を拒む国務省とUSAIDを提訴した。

 2国間の信頼関係は大きく損なわれ、これを建て直すには時間を要する。だが、左派政党の支援に用いられ、米国の国益を損ねていた海外援助予算の削減をトランプ政権が発表したことは極めて有益だ。左翼の経済政策や人工妊娠中絶などを促進するために、米国民の税金が使われるべきではない。

 ただ、トランプ政権内の人事は遅れており、国務省に残る職員たちがオバマ政権時代の政策を継続している。これは今すぐ改める必要がある。

最近、マケドニアで「反ソロス」デモが活発化していると聞くが。

 首都スコピエでは数千から数万人、その他30~40都市でも数万から最大10万人が参加している。これはマケドニアのような小国としてはかなりの規模だ。その最大の目的は、ソロス氏が大きな影響力を持つ社会民主同盟連合中心の連立政権を阻止することだ。

 その重要性は国内にとどまらない。マケドニアは中東からの移民流入阻止でカギを握る国だ。ギリシャ国境にフェンスを設けて移民流入を止めたのはマケドニアだった。

 マケドニアで国境開放を主張するソロス氏に支配された政権が誕生すれば、欧州の政情を不安定化させた移民危機が再び起きる可能性が高い。