香港デモ、武力で民意を踏みにじるな
中国本土への容疑者移送を可能にする逃亡犯条例改正をめぐって、香港で大規模な抗議活動が始まってから2カ月半が経過した。香港政府トップの林鄭月娥行政長官は改正案について、来年7月の事実上の廃案を明言しているが、デモ隊は完全撤回を要求しており、混乱が収まる気配は見えない。
警察が鎮圧で初めて発砲
香港警察は、新界地区などで行われたデモで、12歳の未成年を含む男女計86人を逮捕したと発表した。このデモでは、一部参加者が火炎瓶を使ったり周辺店舗のガラスを割ったりなどの破壊行為に及んだ。
警察側も初めて放水車を配備し、鉄パイプなどを手にしたデモ隊と衝突する中で威嚇射撃する事態になった。一連の抗議活動の鎮圧で、警察側が発砲にまで至ったのは初めてのことだ。
もちろん、どのような理由があれ、デモ隊が暴徒化することがあってはならない。破壊行為が広がれば、香港の民主化を求める市民や国際社会の支持も得られなくなるだろう。
ただデモが過激化する背景には、要求を受け入れようとしない香港政府や、香港の「一国二制度」を骨抜きにし、影響力を強めようとする中国政府のかたくなな姿勢がある。
中国の習近平国家主席は「一国」を「二制度」よりも優先する考えだ。現状の行政長官選は中国の意向に大きく左右され、民意を反映するものとはなっていない。
中国は2016年、香港立法会(議会)で中国に批判的な就任宣誓を行った議員に対し、香港基本法の解釈権を持つ全人代常務委員会が宣誓に関する法解釈を提示して最終的に6人を失職に追い込むなど、締め付けを強化している。デモ隊は改正案撤回のほか、警察の責任追及や普通選挙の実施などを要求しているが、香港政府が要求を受け入れないのも、中国政府の意向に逆らえないためだろう。
林鄭氏は対話を呼び掛けているが、デモ隊は対話には応じない考えだ。14年の大規模デモの際に政府と対話した学生団体メンバーが後に相次ぎ逮捕され、デモ参加者の間で「対話の呼び掛けは影響力がある人物を捜すための政府のワナ」との受け止めが多い。林鄭氏は自身に対する市民の不信感が強いことを自覚すべきだ。
懸念されるのは、中国による武力介入だ。香港に隣接する広東省深圳市の競技場には、100台超の軍用車が集結しているという。少数民族弾圧などの際に動員される人民武装警察部隊(武警)も集まっている。競技場から香港までは8㌔足らずで、10分程度で移動が可能だ。
中国は10月1日に建国70年を迎える。中国がデモ隊を「テロ分子」と決め付け、習氏や中国共産党の威信を保つために武力行使に踏み切れば、国際社会の圧力と不信感は極度に強まろう。
一国二制度の約束守れ
1984年の英中共同声明では、中国は一国二制度に基づいて社会主義を香港で実施せず、香港の資本主義の制度は50年間維持されるとしている。中国がこの国際合意を破り、香港市民の民意を踏みにじることは許されない。