ウルムチ騒乱10年、少数民族への人権侵害許すな


 中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで多くの市民が死亡した大規模な騒乱が発生してから、きょうで10年を迎える。

 この間、中国共産党・政府はテロ対策を表向きの理由にイスラム教徒の少数民族ウイグル族に対する抑圧と監視を強めてきた。しかし、少数民族の人権を侵害し、独自の文化を奪うような政策は決して容認できない。

ウイグル族の信仰も管理

 騒乱の発端となったのは、2009年6月下旬に広東省の工場でウイグル族が漢族に襲われた事件だ。事件を受け、ウイグル族の漢族に対する不満が爆発して騒乱発生につながった。

 当局発表によれば、騒乱で197人が死亡し、1700人以上が負傷した。だが、亡命ウイグル人で構成する世界ウイグル会議は「ウイグル族の死者は1000人から最大3000人」としている。

 背景には、中国政府のウイグル族に対する抑圧的な政策があった。宗教活動の規制や中国語教育の強化などは、ウイグル族の独自の文化を否定し、人権を侵害するもので、ウイグル族の不満が強まっていたことは理解できる。

 だが、中国はこのような政策をますます強化している。自治区政府は昨年10月、条例で「寄宿制の職業技能教育訓練センター」を合法化したが、これは事実上の強制収容施設だ。

 施設では「職業訓練」や「過激派対策」の名目で思想教育や中国語の授業が行われ、虐待や拷問、殺人が横行しているとの証言もある。米政府によれば、こうした施設に80万~200万人以上のウイグル族が拘束されている。米国をはじめ国際社会が批判を強めるのは当然だ。

 さらに許し難いのは、中国当局がウイグル族の信仰までも管理しようとしていることだ。「イスラム教の中国化」を合言葉に中国イスラム教協会が公表した管理規則は、各寺院に「中国共産党の指導と社会主義制度の擁護」を要求している。

 信仰者が、無神論の共産党の指導を受けなければならないのか。信教の自由を完全に踏みにじるものであり、国際常識に基づけば到底受け入れられるものではない。

 自治区では、街中に張り巡らせた監視カメラの映像を基に、顔認識技術を使って個人の行動を追跡監視していることも明らかになった。中国でこの技術を手掛けるベンチャー企業のデータベースには、自治区の住民250万人以上の個人情報と位置情報が記録されているという。

 これでは、当局による恣意(しい)的な拘束がさらに増えるだろう。先端技術の悪用だと言わざるを得ない。

首相は厳しく批判せよ

 中国政府はチベット族など他の少数民族への圧力も強めている。少数民族の言語・文化面の「中国化」を進める強硬姿勢には目に余るものがある。

 安倍晋三首相は大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20 サミット)の際、中国の習近平国家主席と会談し、習氏が来年春に国賓として来日することで合意した。だが「日中新時代」を強調する前に、中国の少数民族に対する人権侵害を厳しく批判しなければならない。