台湾への圧力、露骨な手法で秩序揺るがすな
中米エルサルバドルが台湾と断交し、中国と国交を結んだ。
2016年の蔡英文政権発足以降、台湾との断交に踏み切った国は5カ国目となる。今年5月には中米のドミニカ共和国とアフリカのブルキナファソが相次いで台湾と外交関係を断ち、中国と国交を結んだ。
外交の切り崩し図る中国
台湾はエルサルバドル政府から港湾開発に巨額の資金提供を求められていたほか、来年の大統領選に向け、政権与党からも選挙資金を無心されていたという。台湾側は「わが国の民主主義の原則に反する」などとして、いずれも断った結果、外交関係を中国に乗り換えられた。
断交のタイミングは、蔡総統が台湾と外交関係を持つ南米パラグアイと中米ベリーズの歴訪から戻ったのを狙ったかのようだ。蔡氏は顔に泥を塗られた格好となった。
これで台湾と外交関係のある国は17カ国に減った。このうち9カ国と一番多い中南米は、中国が重点的に台湾外交の切り崩しを図る地域となっている。今回の件で、中国が中南米でも影響力を拡大させている実態が改めて浮き彫りとなった。
中国本土と台湾を不可分とする「一つの中国」原則を認めない蔡氏の総統就任後、中台関係は悪化している。中国の外交攻勢には、20年の次期台湾総統選に向けて蔡政権を徹底的に追い詰める狙いがあろう。
中国が軍事演習や新型ミサイルの配備を進めるなど、台湾への圧力を軍事面でも強めていることは看過できない。米国防総省は、中国海軍が20年までに上陸作戦などを担当する陸戦隊(海兵隊)を3万人以上の規模に拡大させるとの見通しを示した。台湾の占拠作戦を視野に入れたものとみられる。
中国の習近平国家主席は、中台統一への強い意欲を示している。しかし、台湾の人たちの多くは独立でも統一でもない「現状維持」を望んでいる。中国は台湾の民意を尊重すべきだ。
中国は、国交樹立に当たって「金銭外交」を展開したという批判には「エルサルバドルの決定は政治決断で、経済的前提はない」としている。だが、中国はシルクロード経済圏構想「一帯一路」に中南米諸国も組み込もうとしている。
一帯一路をめぐっては、スリランカが債務の返済に窮し、中国国営企業との間で南部ハンバントタ港の運営権を99年間貸与する契約を結んだ。強圧的な債務の取り立てで影響力を拡大する手法が、中南米でも使われる恐れがある。
一方、マレーシアのマハティール首相は一帯一路に関連する鉄道建設などの大型事業を中止した。マハティール氏は、中国の李克強首相と北京で会談した後に「われわれは新たな植民地主義が生じる状況を望んでいない」と述べた。露骨な手法が反発を招くのは当然だ。
一層の日台関係強化を
米国では今年3月、米台双方の高官往来に道を開く台湾旅行法が成立し、蔡氏は今回の外遊の際に米国を経由して良好な関係をアピールした。
日本も台湾との関係を一層強化し、国際秩序を揺るがす中国を牽制(けんせい)する必要がある。