台湾国家扱い修正要求の是非

秋山 昭八弁護士 秋山 昭八

国家成立条件満たす台湾
中国は一日たりとも統治せず

 中国民用航空局は、世界の航空会社の中国部門に対して、台湾を国家として扱っていないか調査するよう命じる通知を出したとのことである。中国の法律に違反して国家として扱っている場合は速やかな修正を求め、法的措置を取ることを明らかにした。

 民用航空局の通知は、米デルタ航空が自社サイトで台湾を独立国家のように扱っていたことを受けた措置である。同局は米デルタ航空に扱いの変更と公開謝罪を要求し、同社は「重大な誤りで、心からお詫(わ)びする」との声明を発表した。

 中国の一部メディアは、日本の航空会社を含む世界の航空大手24社のサイトに、台湾を国家のように扱う表記があると報じている。

 チベットなどの取り扱いをめぐっては、米ホテル大手マリオット・インターナショナルも国家のように扱ったとして、当局がインターネット安全法違反で調査する事態となり、同社も謝罪に追い込まれた。スペインのカジュアルブランド「ZARA」のサイトも台湾を国のように扱っているとして修正と謝罪を求められた。中国外務省の陸慷報道局長は定例会見で「中国で活動する外国企業は中国の主権と領土保全を尊重すべきだ」と述べている。

 台湾の頼清徳行政院長は、昨年9月26日立法院で行った演説で、「台湾は既に『中華民国』という名の独立国家で、改めて独立を宣言する必要はない」と述べている。これを受け、中国の台湾政策を担当する報道官は「台湾が国家であったことはなく、永遠に国家になり得ない。台湾独立の動きに関与すれば結果を伴う」と警告した。

 行政院長は首相に当たるポジションである。台湾は人口が2350万人で、最高指導者の総統と立法委員(国会議員)は国民が直接選挙で選んでいる。また、台湾本島以外にも澎湖諸島、金門島、馬祖島などを実効支配している。さらに、ニュー台湾ドルという貨幣も発行している。

 1949年の中華民国建国以来、中華人民共和国は1日たりとも台湾を統治したことがないし、税金も徴収していない。外国人が台湾に旅行する際も、台湾政府やその在外公館にビザ申請が必要で、中国の在外公館では台湾の入国手続きはしていない。人民、領土、主権、国境、軍隊、通貨、憲法等々「国家の成立条件」を全部満たしており、台湾は主権独立国家概念に当たる。

 しかし、国際連合も台湾を国家と認めていない。ニクソン・ショックによって中華民国に代わって国連安全保障理事会常任理事国になって以来、中国が議案拒否権を持っているからである。中国が「一つの中国」という概念を主張しても、台湾も、その他の国も何も言えない状況である。

 両国の交流窓口機関は92年に台湾の辜振甫と中国の汪道涵がシンガポールで会談し、「一つの中国」を確認したとされる。中国側がこれを「中華人民共和国政府が台湾を含めた全中国を代表する唯一の合法的政府であるという『一つの中国』の原則を確認した合意」と主張するのに対し、台湾側は「『一つの中国』という原則は認めるが、どちらが正しい国かという議論はやめておきましょう」ということである。

 その後、会議が何度も行われたが、お互いの主張に関与しないという暗黙の了解のもと、両岸の貿易、人的交流は拡大し、中国も激怒しないで収まっていた。周恩来、田中角栄、鄧小平らが尖閣問題を棚上げしたのと似た問題の先送りである。

 ただ、昨年5月に誕生した蔡英文政権(民進党)は「この合意は国民党政権時代にやったことで、民進党は関与していない」と主張している。こういう状況の中での台湾の首相の発言である。

 1971年、国際連合で中華人民共和国が「中国」の代表権を取得してからは、多くの国が中華人民共和国を「正統な中国政府」として承認したが、それ以降も資本主義陣営の中華民国との非公式な関係維持を望むアメリカ合衆国や日本国などの多くの国では、中華民国が実効支配している地域を中華人民共和国の統治地域とは別個の「地域」と判断して、「台湾」という地域名称で呼称している。

 米ホワイトハウスのサンダース報道官は5月5日、中国民用航空局が4月25日、外国の36航空会社に書簡を送り、台湾、香港、マカオをウェブサイトや広告資料等で中国の一部として表記するよう強制したとして、トランプ政権として容認しない姿勢を示し、非難する声明を発表した(読売5月7日付朝刊)。

 サンダース氏は「全体主義にある管理社会的なばかげた行為だ」とし「脅迫と強制」をやめるよう要求。「中国が検閲と中国にとってのポリティカル・コネクトネス(政治的正しさ)を米国や世界の自由な国々に輸出しようとする試みに抵抗しなければならない」とも指摘し、トランプ政権として容認しない姿勢を示した。

 これに対し中国外務省の耿爽副報道局長は6日、「米国が何と言おうとも、世界には一つの中国しかなく、台湾、香港、マカオが中国の不可分な領土であるという客観的事実は変えられない」と反論する談話を発表した。

(あきやま・しょうはち)