マハティール新政権、「二つの罠」への対応が課題だ


 マレーシアの総選挙で、92歳のマハティール氏が首相への返り咲きを果たした。マハティール氏率いる野党連合が勝利し、1957年の独立後、初の政権交代となった。

中国の経済進出が顕著

 東南アジアでは最近、強権政治が蔓延(まんえん)している。タイでは4年前のクーデターで政権を握った軍事政権が、総選挙を先送りし続け居座ったままだ。カンボジアでは、7月の総選挙を控えてフン・セン首相が野党を解党に追い込み、与党圧勝をほぼ確実にしている。そしてフィリピンでは、強権発動による麻薬取り締まりで人権侵害が問題になっている。

 こうした状況を見ると、マレーシアが強権政治の渦に巻き込まれず、何とか踏みとどまった意義は大きい。

 未熟な民主主義体制下の東南アジアで、たとえ強権を振るった圧制下でも国民が選挙で政権を選択できるということを明らかにした。東南アジアに押し寄せていた暗雲を押しとどめたマハティール新政権の誕生を歓迎したい。

 マレーシアの課題は「二つの罠」への対応だ。

 第1に「中進国の罠」からなかなか抜け出せないことだ。1人当たりの国内総生産(GDP)は約1万㌦に達したものの、先進国への仲間入りを前に成長は足踏みしたままだ。

 野党連合は今回の選挙で、消費税廃止や最低賃金の引き上げ、高速道路の無料化、教育の無償化などを公約として掲げたが、人気取りのばらまき政策だけでは経済はたちまち失速する。マハティール新政権の課題は、経済の持続的成長を確実にする、しっかりしたシナリオを設定することだ。

 第2に「債務の罠」に陥らないことだ。

 ナジブ前政権下では、シルクロード経済圏構想「一帯一路」を推進する中国の経済進出が顕著だった。一帯一路では、マレー半島東海岸の660㌔に鉄道を建設する事業がある。中国の狙いは、雲南省昆明からラオス、タイを経てマレーシアを通過し、シンガポールに至る長距離鉄道の整備にある。鉄道の無いラオスでは中国が主導して高速鉄道を建設中で、完成すれば北京とシンガポールを結ぶ南北鉄道が完成する。

 ただマレー半島東海岸は田舎町ばかりで多くの利用客は望めず、経済合理性は乏しい。

 それでも中国がごり押ししたのは、南シナ海のシーレーン(海上交通路)が不安定になった場合の輸送手段を担保する戦略鉄道としての意味合いが濃厚なためだ。しかも、建設は中国企業が担当するものの費用は中国の持ち出しというわけではない。

日本の支援が問われる

 このほかにも、港湾建設やマレー半島南東沖の人工島建設など中国企業の手掛ける事業が目白押しであり、くれぐれもスリランカが陥った「債務の罠」にはまらないことが肝要だ。スリランカは中国からの借金を返せず、戦略拠点であるハンバントタ港の租借権を中国に99年間付与することを強いられた経緯がある。

 無論、わが国の支援や外交関係の緊密化も問われてくる。