“コピー症”中国の技術開発の今後について考察がほしかったNW日本版
◆中国の製造業がマヒ
米中貿易摩擦が激しさを増す中、米商務省は4月半ば、中国の大手通信機器・設備メーカーの中興通訊(ZTE)に対し、米国製技術を購入できなくする措置を講じた。ZTEはスマートフォン製造に不可欠な米国製部品を輸入できなくなり、マヒ状態に陥っているという。
ニューズウイーク日本版5月15日号は、ZTEの狼狽(ろうばい)ぶりを見据え、一事が万事「スマートフォンのように中国の優位性と経済成長のために不可欠な産業においてさえ、いまだに革新的技術を獲得できずにいる」実情を取り上げ、分析している。題して「中国はなぜ技術を習得できないか」。
記事ではまず「今から数十年前、中国は外国製の機械や装備を分析し、技術を盗むことを覚え始めた」と一本決め付け、「技術を模倣し、運用できても、そこには研究開発のプロセスが抜け落ちており、技術革新を生み出す基礎が育っていない」と、そのコピー体質が元凶だと断じている。
「(コピーの)主なターゲットは、見本市のため一時的に中国に持ち込まれる最先端機器。1980年代には中国の技術者らは、見本市会場で夜を徹して機械を解体し、図面にし、写真に収め、翌日の見本市に間に合うように再び組み立てるようになった」という。
90年代には合弁企業や外資企業が中国に大挙してやって来て、国内で最優先技術の製造などが行われたが「外国人幹部らは当時、中国人従業員が国営の研究施設などに機密や特許書類を流す姿を日常的に目撃していた」。中国人の“コピー症”は今に続いている。
他に「自由な創造や常識への挑戦、共同研究に欠ける」教育内容の問題のほか、中国軍と企業との関係、共産党政権に付きまとう政治的リスクなどの要因を挙げている。これらは文字通り共産党政権に共通のものだが、記事では米国が従来敷いてきた科学技術振興政策の成功体験を裏返したような事実をそのまま引いてきて、「中国の脆弱(ぜいじゃく)性」の分析としている点が興味深い。
それによると「科学技術の進展は軍事開発から派生することも多い。公的資金だけでなく民間企業の巨額支援が流れ込むからだ。だが中国軍と企業との間に、そうした連携は見られない」。「共産党政権」には「政治的リスクが付きまとう」。「昨日は政治的に許容されたことが今日には禁じられるかもしれないという状況下で、中国企業は長期の研究開発に巨費を投じようとはしない」。
◆腐敗体質が開発阻む
さらに「中国では研究開発から企業運営にまで腐敗体質が染み付いている」「技術革新に賄賂や利益供与が付きまとう」結果、見通しのきく企業経営・開発がスムーズにゆかないのだ。
これに対し米国の科学技術開発を見ると、その高いパフォーマンスは、政府と民間による巨額の研究開発投資に支えられている。研究開発予算の内訳を見ると、予算の約半分が国防分野に、そして保健衛生、エネルギー、宇宙開発分野が続く。ピンポイント的に国家資金を思い切って投入し、そこから生まれる汎用(はんよう)的な技術がさまざまな産業分野に浸透していく。米国における科学技術・イノベーションは、産業競争力強化という基本目標があるわけだ。
こう見てくると、逆に中国のような独裁国家は、国家や軍の意見を集約し技術開発の目標を定め資金を集中的に投入する技術開発はかえって容易ではないかと思われる。記事では今後もコピーが続き、中国のイノベーションはさほど脅威にならないのかなどの点について考察がほしかった。
◆価値観めぐる米中戦
一方、同誌の今週号にある「米中の貿易戦争は価値観戦争」と題したコラムでは「2010年以来、中国側は米企業の中国進出時に技術譲渡を義務付けないことを(中略)承諾したのに、相変わらず技術譲渡を続けさせている」と、中国側の露骨な技術譲渡強制の実態を指摘している。そして手段を選ばず結果的に利を得ようとするのは「(中国の)何千年もの歴史の中から生まれてきた(生きる知恵)」だとし、貿易戦争は「価値観をめぐる米中の持久戦」だと結論付けている。なるほど一つの見方である。
(片上晴彦)