南シナ海、米国は航行の自由作戦徹底を


 米メディアは、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島の人工島に、中国が地対空ミサイルや対艦巡航ミサイルを配備したと報じた。事実であれば、南沙諸島へのミサイル配備は初めてで、中国による軍事拠点化が一段と強まったことになる。

 中国による軍事利用進む

 報道によれば、ミサイルが配備されたのは南沙諸島のファイアリクロス(中国名・永暑)礁やスービ(渚碧)礁、ミスチーフ(美済)礁だ。このほか、既に中国はファイアリクロス礁、ミスチーフ礁に電波妨害装置を取り付けているという。

 中国は人工島造成の理由として海上の安全維持、航行支援、捜索・救助活動、漁業の保護などの非軍事的機能を主張している。だが、米軍関係者は「電波妨害装置には軍事的な利用目的しかない」とみている。

 南沙諸島の3礁と、やはりミサイルなどが配備されている西沙(英語名パラセル)諸島のウッディー(中国名・永興)島の空軍基地を使えば、中国軍機は南シナ海のほぼ全域で活動できるようになる。中国がエネルギー資源をはじめとする主要な貿易経路を支配し、領有権で対立する東南アジア諸国を圧倒して、台湾防衛を目的とした米国の軍事作戦に介入してくる可能性を警戒せざるを得ない。

 中国の振る舞いは国際裁判所の判決を無視するもので容認し難い。オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、中国が南シナ海をほぼ囲むように設定する独自の境界線「九段線」について、域内の資源に「歴史的権利を主張する法的根拠はない」と判断。また、南沙諸島で中国が造成する人工島に関し、排他的経済水域(EEZ)は生じないとしている。

 米国は、南シナ海の中国の人工島周辺で「航行の自由作戦」を続けてきた。中国側の行動を許容しないためには、作戦を頻繁に実施することが求められる。さらに、戦闘攻撃機搭載の原子力空母を中心とする空母打撃群を南シナ海に展開させることが必要になる。

 次期米太平洋軍司令官に指名されているデービッドソン海軍大将は、南シナ海について「海空で少しでも米軍のプレゼンスが減るようなことがあれば、中国の拡張を許すことになる」と警告した。米国は航行の自由を守ることに尽力するとともに、中国の敵対的姿勢に対抗する強い決意を行動で示さなければならない。

 中国を牽制(けんせい)するには、安倍晋三首相が提唱する「自由で開かれたインド太平洋戦略」の推進も重要だろう。法の支配などの価値観を、南シナ海周辺を含む地域に浸透させるべきだ。

 ASEANへ関与強めよ

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は、先月末のシンガポールでの首脳会議終了後に発表した議長声明で、南シナ海情勢について「一部加盟国から表明された懸念に留意する」と盛り込んだ。中国との融和姿勢を強調した前回の首脳会議での議長声明で落とされた「懸念」という文言を復活させたのは適切な判断だと言える。

 中国による切り崩しを防ぐ意味でも、日米のASEAN各国への一層の関与が求められる。