主席任期撤廃、危惧を禁じ得ない権力集中


 中国で開催されている全国人民代表大会(全人代)で、2期10年と定められてきた国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正案が可決された。

 これによって習近平主席が権力を集中させたまま、2期目を終える2023年以降も3選はおろか無期限に主席にとどまることが可能となった。このことは中国政治制度の大転換を意味し、「歯止めなき権力集中」に危惧を禁じ得ない。

習氏「終身制」も可能に

 中国の国家主席の任期をめぐっては、死去するまで絶大な権力を一手に握り続けた毛沢東が晩年、文化大革命を発動し、中国全土を未曽有の混乱に陥れたことへの反省から、集団指導体制に移行した後、1982年に2期10年の規定が憲法に盛り込まれた。

 だが、この反省はどこへ行ったのか。30年余にわたって規定されていた国家主席の任期を撤廃した今回の憲法改正は、習氏への露骨な権力集中を意味し、驚くばかりだ。

 現に憲法改正案には習氏の名前を冠した「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」のほか「中華民族の偉大な復興の実現」「社会主義現代化強国の建設」など習氏が掲げるスローガンが軒並み書き込まれ、習氏一辺倒の色彩が濃厚だ。

 現職指導者の名前が憲法に記されたのは、建国の父である毛以来となる。「鄧小平理論」が憲法に書き込まれたのは鄧の死去後で、習氏には鄧を超えて毛に並ぶ権威が憲法で付与されたことになる。習氏の権威向上と権力集中という現政権の狙いが見て取れる。

 習氏は1期目の5年間を通じて反腐敗闘争で反対勢力を沈黙させ、軍も掌握した。大衆の人気も高い。2016年秋に「党中央の核心」と位置付けられ、名実共に別格の存在だ。

 兼任する中国共産党トップの総書記、軍トップの中央軍事委員会主席には任期の制限規定はないので「終身制」も可能となる。習氏の政権長期化が現実味を帯びる中、個人崇拝の動きが強まることが懸念される。

 昨秋の党大会では「世界トップレベルの経済力を持ち、国民全体が豊かになることで国際的な影響力を持つ」という未来像を打ち出した。長期政権によって、こうした未来像への道筋を付けたいとの狙いがある。

 ただし、習政権の長期化には懸念材料も多い。第一は経済発展が期待通りにいくかの点だ。少子高齢化によって労働力が細り、高い成長を望めるかどうかが疑問視されている。

 経済運営がうまくいかず停滞が続けば、大衆の不満が習氏や党に向かうことになろう。国家主席の任期撤廃の背景には、経済がましなうちに権力基盤を固めておきたいという狙いもあるようだ。

長期的には不安定要因

 第二は中国内外のアレルギーである。反対意見を抑え込む強権的な手法には反発がくすぶっている。政権の任期が不明確になることで、政権交代をめぐる党内の権力闘争の激化も予想される。

 国家主席の任期撤廃は長期的には大きな不安定要因を残したと言えよう。