豪GBRと震災復興の類似性

小松 正之東京財団上席研究員 小松 正之

海と陸の生態系は一体
サンゴ死滅、サケ漁獲量急減

 日本人にも新婚旅行先としてなじみの深い豪州グレートバリアリーフ(GBR)は全長2300キロ、総面積が34万8000平方キロに及び、ほぼ日本列島の長さと総面積に匹敵する広さを有する。600種類のサンゴと3000のサンゴ礁、600の島と1625種の魚類が生息する。1981年には世界遺産に登録された。

 98年以降、白化現象が多発し、サンゴ礁は2015年と16年で50~60%を失った。17年に20%を喪失し、残るサンゴ礁は20~30%である。今後50年では3%しか残らないとの予測がある。

 サトウキビ畑で使われる過剰な肥料と除草剤がサンゴ礁死滅の原因であり、これらの使用量の削減が今後も必要である。豪州の農業もコスト高から人員の削減が進展すると、安易に過剰な肥料と除草剤に頼りがちである。

 また、澪堀(みおぼり)・海底土壌の掘削、牧草地と牛の放牧、沿岸域の開発、さらに地球温暖化などが原因である。また最近ではオニヒトデによる被害が甚大である。

 豪政府は15年に「リーフ2050年長期持続性計画」を作成し、50年までには集水流の中に含まれる汚染物質や過剰栄養物質を現状の50%、窒素化合物を80%削減する目標を掲げた。また、25年までには人工由来の汚染物質の流失量を20%削減し、流失土壌は50%削減を目標とした。直近では3%を削減した。

 欧州人入植前の1890年代のクイーンズランド州の土地の状況、植物相(森林と熱帯雨林)や海岸と汽水域の状況は、現在とは全く異なる。サトウキビ畑や牛の放牧用の草地ないし沿岸域の居住地はほとんどなく、熱帯雨林や森林と自然の草地があり、自然の生態系が維持されていた。GBRはこれらの陸上の生態系と海洋の間のバランスで長い年月をかけて形成されてきた。海と陸の生態系が一体となっているのである。陸の生態系を壊せば海の生態系も壊れる。

 1940年代になると、熱帯雨林と原生林が伐採され、平地には居住地や道路ができて、沿岸域が開発された。森林の伐採後の土地がサトウキビと牛の放牧の農業に利用され、また、沿岸地区での汽水域の船舶の停泊地やヨットハーバーの建設、居住地のための開発も進んできた。

 GBR海洋公園研究所が生態系と土地利用の変遷の研究を進めた。この研究の成果は、歴史的に土地の利用と生態系の変化の結果が、GBRのサンゴ礁喪失にどのように影響したか、その因果関係を示したことである。クイーンズランド州政府に残っている過去の土地利用と植物相の情報を入手して、これをマップ(土地利用・生態系地図)に落とし込む地道な作業で、これにより生態系変化とGBRサンゴ礁の白化現象と喪失の関係を知ることができる。

 また、この地図を基にしてGBR海洋公園研究所がコツコツ繰り返し、科学者、行政と政治家並びに市民にも説明し、理解者と協力者を増やした。科学研究の専門分野の結び付けが大切である。科学者は他の研究分野に興味を持たないのが一般的であるが、全体的地図は科学者も結び付けた。

 一方、日本では豪州のような研究も、環境への配慮も行われていない。例えば、岩手県陸前高田市と住田町を流域とする河川から砂利を採集した場所の環境影響評価もなく、地ならし程度か砂で隠した程度である。また、土砂を採集した森林は、樹木を植え直したり最低限草地を造成したりするなど、欧米諸国が行っているような環境修復も一切されていない。巨大堤防建設の環境影響評価も、復興が緊急対策として実施されていない。国際常識では到底あり得ないことだ。米スミソニアン環境調査研究所長も昨年、同様の意見を表明した。

 豪州の研究では蛇行する天然の河川を直線にすると、かえって流速が早まり、海岸と土砂の浸食が進むことが知られている。陸前高田市街地と気仙川の流域の大堤防や盛り土と嵩(かさ)上げの土砂は、市内の森林を切り崩し、10カ所程度から持って来たが、どこから持ってきたのかトレースが非常に重要だ。海洋に土砂が流れ込み、海洋生態系とカキやホタテ、ホヤの養殖生産の減少が懸念される。それだけでなく、一般論として重金属(水銀やカドミュウムなど)の含有量も確かめるべきだとの助言もGBR海洋公園研究所から得ている。

 また、100年前の陸前高田市の生態系、土地利用と植物相と海域の状況などを調べ丹念に地図に落とし込めば、生態系の変化が分かり、それがどのように海域の状況に変化と影響をもたらすかが分かる。この作業が重要である。

 日本にはピークの1996年にはシロザケ29・6万トンが回帰していたが、2017年ではわずか7万トン程度に落ち込んだ。単純計算では7年後に日本にはサケが帰らなくなる。これは北海道沿岸と岩手県沿岸での長年にわたる針葉樹の植林と河川工事と砂防ダムの建設に加え、東日本大震災後の陸上生態系の破壊の影響が大きい。これは、豪クイーンズランド州の陸地の変化とGBRのサンゴ礁破壊との関係と、基本的には同じと考えられる。

 陸上復興工事を含め、陸上と海洋の生態系の破壊を止めることの検証に日本でも早急に取り組むべきである。

(こまつ・まさゆき)