香港の一国二制度、中国による骨抜きは許せない


 中国共産党政権を批判する「禁書」を扱っていた香港の書店親会社株主で、スウェーデン国籍の桂民海氏が中国で再び拘束された。

 桂氏はスウェーデン大使館で検診を受けるため、北京行きの列車に乗っていたところ、約10人の私服警官に連行された。香港の高度な自治を保障した「一国二制度」の有名無実化が進むことは許されない。

「禁書」書店関係者を拘束

 桂氏ら「銅鑼湾書店」関係者5人は2015年、中国当局に拘束され、一国二制度への信頼は大きく揺らいだ。桂氏は昨年服役を終えたが、再び拘束されたことで、スウェーデンのバルストロム外相が「野蛮だ」と中国を非難したのは当然だ。

 桂氏は難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患っている可能性がある。民主活動家でノーベル平和賞を受賞した作家の劉暁波氏が、海外でのがん治療を希望したにもかかわらず、中国当局に出国を認められずに亡くなった事例を思い起こさないわけにはいかない。中国はすぐに桂氏を釈放すべきだ。

 この問題をめぐっては、桂氏がスウェーデンを批判する動画が公開された。桂氏は「彼らに扇動され私は法を犯した。素晴らしい人生が台無しになった。私はもう二度とスウェーデンを信用しない」などと発言した。だが桂氏の背後には警官2人が控えており、発言内容をうのみにすることはできない。

 香港では14年、行政長官選で「真の普通選挙」を求める民主派が幹線道路を占拠した大規模デモ「雨傘運動」が展開された。これに続き、独立を視野に入れる「本土派」が台頭するなど反中感情がくすぶっている。

 中国の習近平国家主席は一国二制度について「一国」が「二制度」に優先すると強調し、香港政府に独立の動きを封じ込めるよう圧力をかけてきた。しかし一国二制度は国際公約であり、中国が香港の高度な自治を尊重しなければ、独立志向はますます強まろう。

 かつて香港を植民地としていた英国のメイ首相は、習氏との会談で一国二制度の維持を求めた。これに対し、習氏は「互いの核心的利益と重大な懸念を尊重・考慮し、建設的な方法で敏感な問題を処理する」ことをメイ氏に促したという。

 核心的利益は中国の安全保障問題の中で譲歩できない国家利益を指し、この発言は習政権が香港への締め付けを継続することを示したものと言える。しかし、香港の高度な自治を蔑(ないがし)ろにすることは許されない。

 香港では先月、立法会(議会)の補欠選挙で民主派政党「香港衆志」の女性幹部の立候補が無効となった。香港衆志は民主派の中でも、独立の可能性も含めて住民投票で香港の将来を決めるとする「自決派」に入る。中国当局の圧力が強まる中、香港側は16年の立法会選で本土派候補の出馬を認めなかったのに続き、選挙から本土派や自決派を締め出す姿勢を鮮明にした。

圧力強化の道具にするな

 習氏は昨年10月の共産党大会で、一国二制度による中台統一構想に言及した。一国二制度を中国の圧力強化のための道具としてはならない。