南北会談、文氏は日米韓の連携乱すな


 平昌冬季五輪開幕に合わせ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正党副部長ら高官代表団が韓国を訪問し、文在寅大統領と会談した。

 正恩氏との会談要請

 与正氏は文氏に正恩氏の親書を手渡し、「都合のいい時期に北を訪問することを要請する」とする正恩氏の意向を口頭で伝えた。南北首脳会談開催の呼び掛けに対し、文氏は「今後、環境を整え実現させたい」と意欲を示した。

 だが対話の前提条件は、北朝鮮が完全で検証可能かつ不可逆的な非核化に向けて具体的な措置を取ることだ。無条件の対話は北朝鮮に核・ミサイル開発のための時間稼ぎを許すだけでなく、北に「最大限の圧力」を掛け続けている国際社会の連携を乱すことになりかねない。その意味では、北朝鮮の五輪参加に向け、文政権が独自制裁や国連安全保障理事会制裁の例外措置を取ったことも懸念材料だ。

 北朝鮮は平昌五輪開幕の前日に軍事パレードを行い、新型大陸間弾道ミサイルを初公開するなど、非核化の意思は全く見られない。北朝鮮の五輪参加に伴う“微笑外交”は、北に融和的な文政権に狙いを定め、韓国と日米両国を分断しようとする策略だろう。

 文氏は与正氏らとの会談で、北朝鮮の核・ミサイル開発に言及しなかった。融和ムードが損なわれるのを恐れたためとみられるが、これでは北朝鮮に乗じられるだけだ。文氏の「代表団の訪韓で平昌五輪が平和五輪になり、朝鮮半島の緊張緩和と平和の定着、そして南北関係改善の契機となった」という発言も、北朝鮮に迎合しているとしか思えない。

 北朝鮮が五輪を機に南北融和を演出するのは今回が初めてではない。文氏と同じ融和路線の金大中、盧武鉉両政権下でも、平昌五輪と同様に南北は合同入場した。両政権は南北首脳会談を実現したものの、北朝鮮は合同入場した2006年2月のトリノ冬季五輪の8カ月後、初の核実験を強行。その後も核・ミサイル開発に突き進み、融和路線は北朝鮮の非核化にはつながらなかった。文氏は、こうした歴史を思い起こすべきだ。

 平昌五輪・パラリンピック期間中は延期となった米韓合同軍事演習については、米国が終了後の4月中に行うよう韓国に求めているが、文政権は演習開始時期を明言していない。韓国では正恩氏が米韓演習中止の見返りとして、南北首脳会談開催を提案するとの見方もある。しかし、北朝鮮を牽制(けんせい)する上で米韓演習は欠かせない。

 耳を疑うのは、安倍晋三首相の米韓演習再開要請に対して文氏が「内政問題だ」と不快感を示したことだ。だが、この要請を“内政干渉”であるかのように受け取るのは筋違いだと言わざるを得ない。日本と韓国は共に米国の同盟国であり、米韓同盟の強化は日本の安全保障にとっても極めて重要だ。

 警戒緩めず結束維持を

 安倍首相は米国のペンス副大統領との会談で、韓国に北朝鮮への警戒を緩めないよう促すことで一致した。今後も文氏に働き掛け、日米韓の結束を維持することが求められる。