「北は自国民を拷問、飢えさせる政権」
融和攻勢に人権問題で対抗
米国、韓国と認識の違い鮮明
9日に開幕した平昌冬季五輪は、米国と北朝鮮による外交戦の舞台ともなった。五輪を利用して「融和ムード」を演出する北朝鮮に対し、代表団を率いて訪韓したペンス米副大統領は警戒感を表明。北朝鮮による自国民に対する人権蹂躙(じゅうりん)に焦点を当てることで対抗した。(ワシントン・山崎洋介)
ペンス氏は9日、平昌五輪の開幕式を前に、トランプ大統領が先月の一般教書演説に招待したチ・ソンホさんを含む4人の脱北者と面会。北朝鮮による2010年の魚雷攻撃で46人が犠牲になった天安艦の記念館なども視察した。
ペンス氏は面会の場で、北朝鮮が五輪を舞台に「微笑(ほほえ)み攻勢」を行っていると警戒感を表明した上で、こうした脱北者たちの存在が「自国民たちを収監して拷問を加えたり、飢えさせる政権であることを証明している」と訴えた。昨年、北朝鮮から昏睡(こんすい)状態で帰国後に死亡した米大学生オットー・ワームビアさんの父親もこの場に出席した。
北朝鮮の人権問題にスポットライトを当てる米国の戦略について、米韓経済研究所(KEI)のドナルド・マンズーロ所長は、「好戦的な北朝鮮に対処する上で賢明なやり方」だと指摘する。北朝鮮や金正恩朝鮮労働党委員長に侮辱的な言葉を述べるよりも、「自国民への残酷な扱いや基本的なサービスも提供できていない貧しい国であることを指摘することほど北朝鮮の指導者を悩ますことはない」と主張する。
一方、北朝鮮は、平昌五輪に金委員長の妹、金与正党中央委員会第1副部長を派遣。このほか芸術団や“美女軍団”、テコンドー演武を送り込み、開幕式では南北選手団の同時行進を実現させた。北朝鮮は、今後も核・ミサイル開発を継続することを表明しつつも、五輪を利用して友好的な姿勢を演出している。
米有力シンクタンク、外交問題評議会のスコット・スナイダー上級研究員(朝鮮半島専門)は、「金正恩氏が正常で人間的なイメージを世界に発信することで、五輪を自らの国際的な立場を高めたり、経済制裁の解除に利用することを専門家たちは心配している」と指摘する。
こうした中、五輪終了後に改めて北朝鮮への圧力強化へと引き締めを図りたいトランプ政権と、五輪を南北対話のきっかけとしたい韓国の文在寅大統領との間で認識の違いが鮮明になってきている。
7日のペンス氏と文大統領の会談では、文氏が、五輪を「朝鮮半島の非核化と平和を築くための対話につながる場としたい」と述べたのに対し、ペンス氏は、北朝鮮が「永久かつ不可逆的に核・ミサイルへの野心を放棄するまで、米国は最大限の圧力をかける」とくぎを刺した。
ワシントン・ポスト紙9日付(電子版)は、複数の高官の話として「ペンス氏は公的な場で文氏を批判することは避けているが、私的な場では北朝鮮に対して融和的な傾向を強める同氏に対する懸念を口にしている」と報じた。
文氏が南北首脳会談にも前向きな姿勢を示す中、米韓関係は今後、厳しい局面を迎えそうだ。