一層の日印友好関係拡大を

ペマ・ギャルポ拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ

中国の脅威、両国で牽制
アジアと世界の平和に貢献

 1月26日、インドの第69回共和国記念日(民主的憲法の制定日)の祝賀会が都内一流ホテルの最大級のホールで開催された。正確な人数を確認したわけではないが、400~500人は超えているようで、廊下までいっぱいだった。私はもう少し寂しい共和国記念日も経験したことがあるが、近年は年を重ねるごとにどんどん参加者が増え、人々の熱気に包まれる中、感無量であった。

 冒頭に演説を行った河野太郎外相は「2カ国間は現在、最高に良い関係にある」という具体的な例を挙げて話したのみならず、インド太平洋地域の平和と自由のためにパートナーとしてお互いに重要な役割があることを強調し、この両国の関係をさらに拡大し進化させていくことを強く訴えていた。

 またスジャン・R・チノイ駐日大使も、昨年9月の安倍晋三首相のインド訪問の多方面における協力関係ができた成果などについ触れ、もちろんその目玉として日本の新幹線の技術がインドで採用され、2023年までに完成に向かって起動し始めていること、またインドの経済がモディ首相の指導力の下、飛躍的に発展しており、国連機関が直接投資相手国としてインドがトップ10のうちの3番目に挙げたことなどについて、極めて満足げにあいさつをされた。

 会場を見回すと、数だけではなく質の面でも大きな変化が生じていることに気付いた。森喜朗元首相をはじめ下村博文元文部科学相など数多くの現職の国会議員や官僚、財界の有力者、各国の大使なども積極的に会話を交わしていた。

 日印関係は政府のレベルのみならず経済面でも日本企業のインド進出は、統計によると16年の1305社から昨年の9月までには1369社に増えている。また人材育成方面においても次の10年間で約3万人のインド人に日本の技術を身に付けさせるという未来志向の協力関係も進んでいる。両国は単に両国間だけの経済や文化交流にとどまることなく、アジアの二大民主国家としてアジア全体の平和秩序と自由を守る責任を果たすことと同時に、グローバルにもアフリカなどに対する経済協力に関しても互いに情報交換し、協力していくような方針で動き始めている。

 なぜこのように日印関係が加速しているのだろうか。理由はさまざまにあると思う。例えば7世紀以来の仏教文化を根底にした両国の関係、戦後の日本に対しいち早く国の復興と国際社会への復帰に協力したインドの姿勢、また今上陛下と皇后陛下の皇太子時代のインドご訪問などについては誰もが評価するであろう。だが、私はインドの核実験によってインド本来の存在感を得ただけではなく、1960年代以来、中国の核に脅えてきたインドが大きな自信を得たことと、冷戦の崩壊によって新しい国際秩序における環境と地政学的位置付けが変化し、アメリカも日印関係に関してはプラス思考で考えるようになったため、邪魔立てをしなくなったことからではないかと思う。

 そして中国の飛躍的な経済・軍事の発展と新しい覇権国家としての台頭が、日本とインドを必然的に近づけてくれたような面がある。こういった中国の脅威は昨年7月、72日間のインド・ブータンの国境における不法侵入や、12月26日の再度のインド領内不法侵入で明白だ。同様に2018年早々から中国が日本の領海を侵し、依然として南シナ海においても人工島の軍事化などがあり、それらをインドと日本が共有するのは当然である。

 この中国の脅威の本質を理解して動いている安倍首相と、大きなマーケットとしてのインドの魅力だけに目がくらんでいる財界の間には多少認識の食い違いがあるように思う。例えばメディアでもインドの経済に関する記事は以前に比べると桁違いに取り上げるようになったが、インドの総合的潜在的な力、つまりインドの文明、哲学そして国際社会における力などに目を向けず、経済の側面だけしか見ないと、21世紀の真の戦略的グローバルパートナーとして対等平等な関係を進めるには障害となるだろう。

 インドは偉大な文明大国でもあり、さまざまな試練を乗り越えてきている大国でもある。日本の技術者などの中には現地生産などをインド人に任せたら質が落ち、それが自社の名誉と信頼に関わるというややもすれば傲慢な考えがあるようだが、どの人種でもそうであるようにインド人も中国人や日本人同様に優秀な民族である。しかも日本人や中国人よりも忍耐と寛容性に関しては上手と言っても過言ではない。

 私は現在の日印関係双方の努力によって積み上げてきたことをさらに拡大し、進化するには両国がさらに謙虚になってお互いを包括的に研究し合うことが何より重要なことであり、両国の良い関係は日本とインドの国益だけではなく、アジアの発展と安定そして世界平和にも両国が力を合わせることによって多大な貢献ができ、中国との最悪な事態を回避する牽制(けんせい)の材料にもなると信じている。幸いに今、日本とインドの両指導者も相互信頼と世界観を共有し、パートナーとして前進する環境を天が与えているようにさえみえる。