「習一強体制」確立へ成果誇示
盤石でない政権基盤反映
中国新華社17年10大ニュース
2017年はトランプ米大統領の予測困難な言動や北朝鮮の核ミサイル実験に振り回された年であった。中国自身も第19回共産党大会(19大)という大行事を経たが、昨年の国内外の情勢を中国はどう見たか、新華社が選定した国内外10大ニュースから探ってみよう。
中国の10大ニュースは、民意の集計による客観的な評価というより共産党統治に利する政権に都合の良いニュースとして選別されている感がある。またそれは時系列的に取り上げられ、重要度の判断を避けた羅列という難点はあるが、国営通信の選定したニュースとして政権の意向を知る手掛かりになるものでもある。
まず新華社が選んだ17年の国内10大ニュースは発表(時系列)順に、①全国貧困28県リストから江西省井岡山市などが貧困脱却(2月)②北京の首都機能移転先として河北雄安新区を設定(4月)③「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの開催(5月)④香港祖国復帰20周年の祝賀大会で習近平が重要演説(6月)⑤生態環境保護など党中央の決意と問責を強化(7月)⑥孫政才前重慶市党委書記が重大規律違反で処罰(7月)⑦解放軍・建軍90周年祝賀軍事パレードを内蒙古演習場で習近平閲兵(7月)⑧科学技術研究成果で量子暗号通信幹線を北京―上海間に敷設(9月)⑨19大開催で「習近平一強体制」確立(10月)⑩中国経済は高成長から質の高い発展に転換(12月)―となっている。
筆者なりに①から⑩ニュースの軽重を推定すると⑨昨秋の19大開催が実質的に最大行事で、他のニュースはそれに向けた習政権の成果の誇示の狙いが見て取れる。すなわち①は中国が最貧困層6000万人を抱える中で貧困脱却に取り組む習政権の成果、②はパンク状態の北京市首都機能を分散する習主席の大英断、③は中国の新外交戦略の国際的なお披露目に成功、⑦は建軍90周年祝賀の軍事パレードを北京以外の演習場で野戦的に実施し、習軍権掌握の誇示、⑩は習近平新時代を迎えて経済成長の鈍化を量から質への転換と弁明、と読み取ることができよう。
また党大会での習一強体制の確立に向けた権威付けとして、④香港祖国復帰20周年祝賀大会での習演説を持ち上げ、権力抗争では⑥次期ホープと見なされてきた重慶市トップを反腐敗闘争で排除、などが狙いとされた。
見てきたように国内ニュースの選定では、最重要な出来事はあくまで19大の成功で、習一強体制の確立と長期政権化の布石、遠大な覇権戦略の展開に向けて一貫した習近平プレイアップに徹している点が注目される。逆にここまで習一強体制の持ち上げや忖度(そんたく)が必要をされる裏には、盤石ではない政権基盤の事情が透けて見える。
次に国際10大ニュースは、①中国主導の「人類運命共同体」理念を国連が決議(2月)②米国ファーストでパリ協定など国際条約から離脱③カタールとの断交騒動で中東の亀裂深まる④トランプ政権で米露関係の融解難航⑤朝鮮の核・ミサイル実験により半島情勢が緊迫⑥ポピュリズムが欧州の政治勢力図に衝撃を与える⑦相次ぐテロ事件が西側社会に衝撃を与える⑧世界経済傾向が同時回復を鮮明に⑨中国の19大が世界に大きな影響⑩「イスラム国」崩壊でテロが拡散―が新華社によって時系列順に挙げられている。
国際10大ニュースでは中国の影響力拡大が一貫して誇示されているのが目につく。実際、①習外交の新キーワードの「人類運命共同体」理念が国連社会開発委員会で決議に盛り込まれたとし、⑧では今年の世界経済体の75%が前年の成長率を上回ったのは中国主導のおかげと暗示し、⑨19大が「世界に大きな影響を与えた」と自賛しながら⑤北朝鮮の核ミサイル破棄や半島の緊迫抑制への中国の影響力が期待外れであったことには頬かぶりしている。のみならずライバル視する米国に関して②「米国ファースト」が多国間協力体制を損ない、グローバルガバナンスに新たな試練をもたらしたと批判し、④「ロシアゲート」などを取り上げてトランプ政権での米露関係悪化を誇張している。一方で金正男事件など中国の利益に反する事件は無視しているように、本来客観的に見るべきニュースにバイアスをかけて国民に提示しており、中国人の国際情勢を見る目を曇らせることが危惧される。
先の中国軍艦のわが国の接続水域侵入など、これまで中国の不可解で自分勝手な行動が多発してきたが、見てきたような意図的な国内外のニュースの提供の仕方もその一因になってはいないか。朝鮮半島の緊迫事態は当面、北朝鮮の平昌オリンピック参加で一服状態にあるが、本年も半島危機は継続し、中国のステークホルダーとしての責任はますます重くなってくる。
また近年、中国の共産党独裁統治の正統性や執政の正当性が7億人ものネット人口から挑戦を受ける折から、実際に起きた出来事を正視して国際的なニュース観と乖離(かいり)の少ない情報を提供する必要は高まっている。中国は19大で大国志向を表明したが,そのためにも中国の適切な情勢認識の必要性は強まり、新華社が発表する10大ニュースは国民に提供する情報の正確さのバロメーターとして目を光らせる意味がある。
(かやはら・いくお)