中国の思惑外れた米中会談
米シリア攻撃で影薄く
「対北」「貿易」で課題背負う
習近平中国国家主席が公式訪米した米中首脳会談は、4月6、7日にわたって米フロリダ州のトランプ米大統領の別荘で行われたが、実り少ない結果に終わった。それは両首脳の問題に対する対応姿勢の違いだけでなく、米国のシリア攻撃の影響もまた大きい。
実際、6日の首脳会談を終えたトランプ大統領は夕食会の席で「長く議論したが何も得てない」と述べ、翌日の会談への期待を示した。そして7日の首脳会談では、国連の対北朝鮮制裁の完全履行や米国の貿易赤字解消に向けた中国の輸入枠の拡大などに期待がつながれたが、アピールすべき成果もなく、共同声明も共同記者会見もないまま首脳会談は終わった。
特に中国にとっては、秋の第19回共産党大会を控え、米中首脳会談を成功させて習近平の威信を高める必要があっただけに期待外れの結果となった。まさに首脳会談の最中に米軍のシリアに対する59発の巡航ミサイル攻撃は世界のメディアを引き付け、米中首脳会談の印象を薄め、中国は大国外交のアピールもできなかった。
そもそも今次の米中首脳会談は障害を排しながら実現したもので、会談のテーマは、米国側から①北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するための中国の協力②多年累積されてきた米国の対中貿易赤字の解消③南シナ海の海洋秩序の維持と軍事基地化阻止④台湾問題―などが期待されていた。
他方で中国側は、具体的なテーマで協調を探るというよりも、米中二つの大国の対等な関係を国際的にアピールすることが主眼とされ、それは秋の党大会を控えて中国内に習主席の威信を高めることでもあった。さらに米中大国関係の維持に当たりオバマ時代に7回にわたって継続されてきた米中戦略・経済対話の継続や中国外交の目玉である「一帯一路」戦略への理解と参画を求めることが期待された。
今次首脳会談の結果は米中両国共に思惑外となったが、ここで取引外交を通じた米中両国の損得勘定を整理しておこう。まず北朝鮮問題では、北朝鮮の核開発阻止に向けた具体的な対応で、両国トップの危機認識は一致したものの、その切迫感の温度差から協力の深化や具体化は進まなかった。中国にとっては、どのような状態であれ北朝鮮が崩壊することなく存続することが国益であり、韓国主導の半島統一は鴨緑江を挟んで米勢力と直接対峙(たいじ)せざるを得ず、その回避が追求されている。中国は米韓合同演習中止と北朝鮮の核開発停止の同時推進や韓国内の高高度防衛ミサイル(THAAD)システム配備の撤回を主張しており、米国が期待する国連の対北朝鮮制裁の完全履行の確約はしなかった。中国は米国と取引できる対案を出せないまま、米国から協力が得られないのなら単独で「米国の計画」を実行すると通告をされ、現に米空母打撃群の近海接近など、北朝鮮への米軍事攻撃のリスクまで背負う立場に追い込まれた。
通商面では、米国の貿易赤字の47%を占める中国との貿易収支の改善や人民元の為替操作禁止を求める米国側の要求に対して、満足させる対策が示せなかった。米中貿易での米側の赤字の多くは中国に投資した米企業によるもので、米国の利益でもあるとの説得はトランプ大統領には通じなかっただけでなく、中国は「100日計画」をのまされた。ロス米商務長官は対中輸出の増加や中国の鉄鋼製品の安売り規制を求めており、また反中派のナバロ国家通商会議委員長などは中国の為替操作を非難しており、中国経済が低迷する中で米国を満足させる「100日計画」の策定は容易ではない。このような事態を中国内メディアは、当面の貿易戦争回避を成果として喧伝(けんでん)しているが、今後、同床異夢の両国が難しい貿易交渉の結論を期限内に出せるか、難航必至と見るべきであろう。
中国から提案された「米中戦略・経済対話」の継続は同意され、①外交・安保②経済③サイバーセキュリティー④社会・文化―の4分野で閣僚級対話の枠組みが新設されることとなった。また米中投資協定の推進などの進展もあり、さらにトランプ大統領から年内の訪中招請を受け入れなど中国は一定の成果を得たが、シリア攻撃の余波による大きな打撃を受けている。
ちなみに米国のシリア攻撃は、度重なるシリア政府軍の化学兵器使用に起因し、レッドラインを越えたとして電撃的にミサイル攻撃が発動されたものである。米国の狙いは、オバマ時代とは違う決断できる大統領の誇示で国内支持率の改善(40%から57%へ)、「米国第一」を掲げながらも国際秩序維持に威信を懸ける姿勢の誇示、北朝鮮への威嚇・警告、さらに米中首脳会談に臨む習主席に心理的威圧を加えるなど一石多鳥の効果が発揮されている。米中首脳会談に臨んで米国は意表を突くシリア攻撃で戦略的にも、戦術的にも成功を収め、今後の米中関係で中国に課題を背負わせる利を得ている。
見てきたように今次首脳会談は中国には不本意な結果となり、北東アジアの危機も招いた。これまで中国は自国の国益に拘(こだわ)りご都合主義的な主張や批判をしてきたが、大国を自負するのであれば、今次首脳会談でも北朝鮮の核開発阻止や海洋秩序維持などでグローバルな責任国家の姿勢を見せる必要があった。(2017・4・13記)
(かやはら・いくお)






