中国国防費、好戦的な「兵営国家」の脅威
中国の2017年の「公表国防予算」が初めて1兆元(約16・5兆円)を突破することが確実となった。習近平政権の「強軍路線」を反映したものである。この「公表国防費」には兵器開発費、装備輸入費などは含まれていない。国際社会で一般的に使用されている基準を踏まえて算出した場合、軍の兵器取得費が主要国に比べて極めて安価である点を念頭に置けば、実質的には前年比5割増近くの予算額になる。
初の1兆元突破が確実に
わが国ではここ十数年来、高い伸び率が続く中国の「公表国防費」の発表ごとに「透明性に欠ける」と批判してきた。だが、増強の意図について究明しようとはせず、その結果、防衛政策上の対応を取ろうとしてこなかった。政府・防衛当局の怠慢だと言わねばならない。
「強軍路線」をめぐっては、中国当局の説明を受けなくても十分にその意図を推察することは可能だ。まず承知すべきは、中国は国家建設に先立って「人民解放軍」という軍事組織が存在していたという点である。文化大革命時に、党、政府機構が政治的大混乱で機能を停止した時も、軍事機構は存続していたのはこのためだ。つまり、典型的な「ギャリソン・ステート(兵営国家)」である。
それに建国後、中国はチベットを侵略し、インド、ソ連、ベトナムなど周辺諸国のほとんどと戦争を行っている。鄧小平の意向を受け市場経済方式を導入したために、かつて「中国も豊かになれば普通の国になり、極端な軍拡はやらなくなる」との楽観論があった。
しかし、鄧小平氏はベトナムに「教訓を与える」と述べて攻撃を命じた人物である。また、中国が着々と進めているシルクロード経済圏「一帯一路」構築も、鄧小平氏の遠大な戦略を踏まえたものである。
中国の軍事力拡大の方針を見ると、航空宇宙軍、戦略弾道ミサイル、海洋海軍力の増強には集中的に予算を投入している。米国のオバマ前政権は核弾道ミサイル戦力、海軍力などを削減してきたが、ロシアとともに中国はこれらの分野を質量ともに増強している。
陸上兵力が何百万人いても、海を隔てた日本にとっては脅威でない。だが、海洋海軍力の強化で、海を越えて兵力を投入する能力を増大している。沖縄県・尖閣諸島だけでなく、西太平洋のわが国の領土も奪取の対象になりかねない。
拡大、増強された中国軍にどのように対応するかは、今後の日本の大きな課題だ。領土を奪取されてから取り返すなど消極的な態度では、これからの国際社会では領域を守れない。
日本は防衛費引き上げを
中国国防費は日本の17年度の防衛予算案(5兆1251億円)の3倍以上の水準に達している。北大西洋条約機構(NATO)は加盟国の国防費を国内総生産(GDP)の2%に引き上げることで合意したが、日本も見習う必要がある。
これは単に防衛力の増強にとどまらず、わが領土の侵害は許さないとの国家、国民の「目に見える意思表示」の意味合いがあることを自覚すべきである。