アブサヤフ、ドイツ人を拉致・斬首

 フィリピン南部を拠点に活動するイスラム過激派アブサヤフが、人質となっていたドイツ人男性を斬首して殺害した。アブサヤフは国軍の警備が難しい海上で、スピードボートを使って船舶を襲撃して船員の外国人を拉致。高額な身代金を要求するというテロ活動を繰り返しており、フィリピン政府は早急な対策を迫られている。(マニラ・福島純一)

比大統領、救出失敗を謝罪
テロ対策に日本の支援活用

 先月27日、アブサヤフに拉致されていたドイツ人男性が殺害された。アブサヤフがネット上に殺害動画を公開し判明した。殺害された70歳の男性は、昨年11月にフィリピン南部スルー州近海をヨットで航行中にアブサヤフに拉致されていた。同乗していた女性はヨット上で殺害されている。その後、アブサヤフは3000万ペソ(約6700万円)の身代金を要求し、支払い期限を先月27日に設定。もし支払わなければ男性を殺害すると脅迫していた。フィリピン政府は国軍による捜索活動を行っていたが救出には至らず、過去10カ月でアブサヤフに殺害された3人目の外国人となった。

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イスラム過激派アブサヤフに拉致された沿岸警備隊員ら=2015年7月に同組織が公開したとみられるビデオより

 ドゥテルテ大統領は、「われわれは航空機を使うなど、人質の捜索活動にベストを尽くしたが救出に失敗した」と述べ、殺害された人質の家族とドイツ政府に謝罪した。ドイツのメルケル首相は、「野蛮で忌まわしい行為」とアブサヤフによる殺害を強く非難し、テロリズムに団結して立ち向かうよう国際社会に呼び掛けた。

 南部でアブサヤフによる拉致が多発していることをめぐりレクト上院議員は、政府が現在、優先課題として取り組んでいる麻薬問題よりも、アブサヤフがより大きな脅威だと指摘し、国家警察の人員をアブサヤフの掃討に割くべきだと主張した。

 国家警察は麻薬捜査官による韓国人拉致殺害事件を受け、内部浄化を優先するため麻薬捜査を停止していたが、約1カ月を経てデラロサ国家警察長官は麻薬戦争の再開を検討。警官が民家を戸別に訪問する麻薬撲滅作戦を行う方針を示している。

 しかし、これに対しレクト上院議員は、家を戸別に回ることに人員を割くよりも麻薬製造工場など、根本の壊滅に注力すべきだと主張。さらに周辺諸国にまで影響を及ぼし、アジア最悪の犯罪集団と化しているアブサヤフが、麻薬問題よりも国家のイメージを悪化させていると指摘し、ドゥテルテ政権にアブサヤフの壊滅に注力するよう求めた。

 国家警察はマニラ首都圏の汚職警官約300人を懲罰の一環としてアブサヤフの拠点の一つとなっている南部への配置転換を決定。国軍は彼らに都市部での警備を任せ、ジャングルにおけるアブサヤフ掃討に集中できると期待を寄せていたが、実際に派遣日に姿を現した警官は54人にとどまり、期待外れの結果となった。

 国軍の掃討作戦にもかかわらず南部では、依然としてアブサヤフとみられる武装集団による外国人拉致が活発に行われている。タウィタウィ州沖の海上で先月19日、ベトナムの貨物船が武装集団に襲撃され、ベトナム人船員1人が射殺され、船長を含む6人が拉致された。貨物船には船員17人が乗っており、通報で駆け付けた沿岸警備隊によって、船上に残された10人が救助された。同海域では22日にも、中国からインドネシアに向かっていたパナマ船籍の貨物船が、アブサヤフとみられる2隻のスピードボートに追跡されている。通報を受けた海軍のパトロール船が海域に駆け付けたところ、スピードボートは追跡をやめて逃走し襲撃は未然に防がれた。

 アブサヤフは国軍の監視が行き届かない洋上で貨物船を襲撃し、外国人船員を拉致するテロ行為を繰り返しており、フィリピン南部の近海を航行する外国の船舶にとって大きな脅威となっている。政府によるとアブサヤフは現在、船舶への襲撃などで得た外国人の人質31人の拘束を続けている。

 ドゥテルテ大統領は、日本からの支援で提供される10隻の巡視船の一部をアブサヤフの活動が活発な地域に配備し、警備を強化する方針を示している。