比大統領は米との同盟関係重視せよ


 フィリピンのドゥテルテ大統領が米国に対する批判を続けている。

 だがフィリピン近海を含む南シナ海では、中国が「力による現状変更」を進めている。ドゥテルテ氏は米国と無用に対立するのではなく、同盟の維持・強化に努めるべきだ。

 批判続けるドゥテルテ氏

 ラオスで予定されていた米比首脳会談の前日、ドゥテルテ氏はオバマ米大統領を下品な表現でののしった。このため会談が中止となったのは残念だった。

 フィリピン政府は今月初め、ルソン島に近い南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)で、中国が浚渫船とみられる大型船を展開したことを明らかにした。会談は中国を牽制(けんせい)する絶好の機会となったはずだ。

 6月に大統領に就任したドゥテルテ氏は、麻薬取引の容疑者を殺害しても刑事責任を問わない方針を打ち出した。これまで約2000人が死亡している。

 米国は懸念を表明しており、オバマ氏は会談で「適正な手続きと基本的な国際規範の順守」を求める考えだった。ドゥテルテ氏の暴言はこれに反発したものだが、たとえ犯罪容疑者であっても、むやみに殺害していいわけではない。米国の懸念は当然であり、ドゥテルテ氏は治安対策を見直すべきだ。

 ドゥテルテ氏は東アジアサミットでも対米批判を展開。さらに、対テロ支援を名目にフィリピン南部ミンダナオ島に巡回駐留する米軍部隊について「出て行かなくてはならない」と述べた。米国との無用の摩擦を生じさせるだけでなく、南シナ海で「力による現状変更」を進める中国を利しかねない発言だ。

 フィリピンのアキノ前大統領は対中強硬派であり、2013年に南シナ海の領有権問題をめぐって仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)に提訴。今年7月に中国の主張を退ける判断が下された。14年には事実上の米軍再駐留のため、米国と新たな軍事協定を結んでいる。だがドゥテルテ氏が対米批判を続ければ、アキノ氏の取り組みが水泡に帰する恐れがある。

 ドゥテルテ氏の対米不信の元になったのは、南部ダバオ市で02年に起きた爆弾事件とみられている。容疑者を米政府関係者が米国に逃がした疑惑があり、当時市長だったドゥテルテ氏はこの事件を機に米国への悪感情を抱くようになったという。

 ただ、南シナ海問題に関わるのはフィリピンだけではない。重要なシーレーン(海上交通路)である南シナ海が中国の“内海”となれば、日本をはじめとする周辺諸国に重大な影響を与え、地域の安定が損なわれることになる。ドゥテルテ氏はこのことを認識すべきだ。

 フィリピンでは反米機運の高まりなどから米軍が1992年に撤退。「力の空白」を埋める形で90年代後半から中国が南シナ海に進出した。この事実からも教訓をくみ取る必要がある。

 日本は今後も防衛協力を

 一方、安倍晋三首相はドゥテルテ氏との会談で、フィリピンに大型巡視船2隻を円借款により新たに供与する方針を表明した。今後も中国をにらんでフィリピンへの防衛協力を続けることが求められる。