「9・11」15年、教訓直視しテロ対策強化せよ
米国で3000人近い犠牲者を出した同時多発テロから11日で15年を迎えた。今年もニューヨークの「グラウンド・ゼロ」では追悼式が厳粛に営まれ、テロ防止を誓い合った。
世界中で脅威高まる
テロを実行した国際テロ組織アルカイダは衰えたが、新たなテロ集団が次々に登場し、過激派組織「イスラム国」(IS)が人々の暮らしを脅かしている。
9・11事件後、米国は「対テロ戦」を宣言し、アルカイダの拠点だったアフガニスタンやテロ関与が疑われたイラクに軍事力を投入した。事件発生から10年後の2011年に首謀者のウサマ・ビンラディン容疑者を殺害し、オバマ米大統領は「正義は達成された」と強調した。
だが、それでもテロ組織は世界に拡散し、中東の混乱に乗じてISも台頭した。昨年11月のパリ同時多発テロや今年3月のベルギーでのテロなどが続き、7月にはバングラデシュ・ダッカのテロで日本人7人が犠牲になった。
9・11事件では24人、13年のアルジェリア人質事件では10人が犠牲になっており、日本人もテロ・ターゲットの例外でないことを改めて示した。それだけに9・11事件の教訓をいま一度、想起しておきたい。
第一に、この事件は冷戦後の戦争形態が必ずしも国家対国家ではなく、「非対称型戦争」もあり得ることを示したことだ。
それは平時・有事、軍民の区別なく攻撃が仕掛けられ、いつ、いかなる場所で国民が犠牲になるか予想できない。攻撃手段が科学技術の進展とグローバル化によって核・生物・化学(NBC)兵器やサイバーなど多種多様になってきた。世界は「次なるテロ」を厳重警戒している。
第二に、対テロ戦で最も重視すべきは「情報」だということだ。テロ組織は地球規模でネットワークを形成しており、各国の情報機関が素早く情報を分析し、提供・交換することがテロ対策に欠かせない。
例えば06年8月、英内務省は手荷物に隠した液状爆発物を航空機内に持ち込み、飛行中に爆破させるテロ計画を摘発した。英米の情報機関による通信傍受など徹底した内偵捜査や、多数の街頭カメラ設置などの対テロ施策が奏功したものだ。
これに対してわが国のテロ対策は脆弱(ぜいじゃく)だ。何よりもテロに軍事的に対応する発想が欠落している。海外ではテロを「準戦争」と捉え、軍隊を投入して対策に当たっている。
五輪開催でも軍がテロ対策の中軸を担っており、12年のロンドン五輪では集合住宅の屋上に地対空ミサイルまで配備された。軍事アレルギーを続けていれば、テロ対策が甘くなる。
課題は残されたままだ
「情報」もそうだ。わが国には本格的な諜報(ちょうほう)機関が存在しないばかりか、情報共有の前提になるスパイ防止法すらない。これでは日本は情報の「弱い輪」となり標的にされかねない。テロ対策は犠牲者を出す前に封じ込めるのが鉄則だが、国連が義務付けた共謀罪も未制定だ。9・11事件が突き付けた課題が、いまだ残されたままとなっている。このことを自覚し、テロ対策に本腰を入れる秋(とき)だ。