日・ブータンの国交30年展、日本重視の王室品展示
意義深い西岡氏ら民間外交
国と国の関係も結局人間同士の関係である。それを特徴付けるような出来事をこのたび体験することが出来た。「世界一の幸せの国」として知られているヒマラヤの小国ブータンの展示会「ブータン~しあわせに生きるためのヒント(A Hint to Happiness)」が5月20日から約1年と数カ月、日本の主要都市で開催されることになり、その開会式に出席するため、同国の前国王妃ツェリン・ヤンドン・ワンチュク陛下と現国王御妹君デチェン・ヤンゾム・ワンチュク殿下が御来日された。
この期間中、天皇皇后両陛下への拝謁、皇太子殿下、秋篠宮殿下や御皇族の方々と謁見、御懇談が実現した。ブータン国と国民はこのお計らいに深く感動、感激している。アジアの巨大国インドと中国にはさまれている小国ブータンは自国のアイデンティティーを最大限に保ちながら、自国の近代化、民主化への変動を賢明なる前国王、現国王の指導のもと慎重に進めている。国連をはじめとしたいろいろな国際機構でも日本を応援している。
この展示会は日本とブータンの国交30周年の記念行事の一環として日本の新聞・テレビ局など民間の主催、協力、また両国関係省庁の後援を受けている。
ブータン王国国立博物館、ブータン王立織物博物館、ブータン王立テキスタイルアカデミーなどに所蔵されている貴重な仏像、仏画、法典、宗教楽器、織物など仏教美術のほか、ブータンの生活文化を表す品々は現国王夫妻の幼少期の衣装など、145点に及ぶ。展示物の中には今年2月に誕生した新王子のものも含まれている。ブータン王室のコレクションから初公開される国王陛下の衣装・装飾品もあり、如何にブータンが日本を重視しているかを物語っていると思う。
実際、展示物について前国王妃陛下は、「2月に誕生した新王子のお披露目で国王と王妃がお召しになった衣装を展示することは、両国の友情を象徴しています」と語られていた。
国交30年記念のこの展示会は20日、東京の上野の森美術館で開幕し、開会とテープカットの式典で、前国王妃陛下は「ブータンと日本は30年前に正式に国交を結んだが、実現はブータンが国境を越え、諸外国と積極的に交流を始めたとき、日本の青年、西岡京治氏当時31歳が夫人とともにブータンへ来られ、以後生涯をブータンの農業開発に捧げ、その功績を讃えて1980年第4代国王は西岡氏に最も国家に貢献した人物に与える赤い肩掛けと『ダショー』の称号を授けられた」と述べられた。
西岡京治氏(1933-92)が受けた『ダショー』は、ブータン国王が授ける最高の称号で、文字通り「最高に優れた人物」の意味があり、帯刀が許される。西岡氏は農業指導者で、ヒマラヤの山麓のような高地の国ブータンで稲作を成功させた功労者だ。
また前国王妃陛下は、今日も国際交流基金の専門家たち、若者たちがブータンで献身的に貢献していることを強調し、お礼の気持ちを表すと同時に、民間交流の重要性を訴えた。前王妃陛下はさらに「2011年ブータン国王と王妃両陛下は日本の国賓として貴国を訪問された。国賓としての栄誉に加え日本の皆様方からの親愛に満ちたご好意に、両陛下ともに深く感銘を受けて帰国されました」と日本の関係者各位に感謝と敬意を表されるとともに、ブータンと日本の人間同士の親しみの深さをアピールされた。
私はこのたびの両国の皇室と王室の外交、交際交流、平和への計り知れない貢献度を実感するとともに、皇室、王室の自国民のために誰もが代わることのできない貢献をしておられることを、もっと一般国民が認識することが大切であると痛感した。各国の外交官たちが自国の国益のため大変な努力をしていることを評価しないわけではないが、皇室、王室外交の効果は大であり、歴史と伝統の継承者として過去、現在、未来をつなぐ大きな潜在的力であると確信した。
また同時に、西岡氏のような個人が民間外交の側面から2カ国関係に多大な影響を持っていることを、日本の一国民として誇りに思っただけでなく、その重要性を多くの日本人に知っていただきたいとも思った。
経済的な政府開発援助(ODA)、外交官や政治家の活躍も大切であるが、それ以上か、それと同じくらいに人的交流の人々は平和の戦士として日夜、異文化の下、不便な環境で頑張っている。
ボランティアたちの建設的で具体的な活動を通して発展途上の人々の心に寄り添い、奮闘している事例がブータンに存在すると見るべきであろう。このような民間人の協力と交流に裏打ちされた二国間の関係は、国同士の外交、防衛の面でも大いにプラスとなり、下支えとなるため、強い関係と言えるだろう。
上野の森美術館で7月18日まで続く「ブータン」展示会は幸せへの手がかりという副題がついている。この展示会を通して人々が少しでもより幸せになればブータン王室と国民も幸せに感じるに違いない。