パキスタン・テロの一因に過激派利用する政府挙げるガーディアン

◆「大量虐殺」に危機感

 世界各地で過激組織「イスラム国」(IS)の同調者によるテロが頻発している。3月下旬にはパキスタン東部パンジャブ州の州都ラホールで自爆テロが起き、イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の分派ジャマートゥル・アフラルが犯行を認めた。犯行声明によると「標的はキリスト教徒」だったという。

 ISはイラク、シリアの支配地域でキリスト教徒やヤジディ教徒を虐殺したり、女性を奴隷にするなど異教徒を迫害してきた。ジャマートゥル・アフラルは2014年にタリバンから分離、ISへの忠誠を誓っていた。

 英パキスタン・キリスト教徒協会のウィルソン・チョードリー会長は米紙ワシントン・タイムズ紙で、パキスタンでの自爆テロを「大量虐殺」と非難した上で、「西側の政府がこの問題をはっきりと認識しなければ、キリスト教徒の死者は今後、急激に増加する」と強い危機感を示した。

 キリスト教徒への迫害を監視している「オープン・ドアズ」によると、キリスト教徒が危険にさらされている国として、北朝鮮、イラク、エリトリア、アフガニスタン、シリアを挙げ、パキスタンは6番目に挙げられている。

 シリア内戦が始まった2011年以降、シリアのキリスト教徒の3分の2がシリアから脱出、イラクのキリスト教徒は03年の約150万人から20万人に減少しているという。

 ラホールに支部を持つ「法と正義のためのアメリカンセンター」の主任顧問、ジェイ・セクロー氏は、自爆は「(ISの指導者)アブ・バクル・バグダディの意図によるもの」と指摘、「キリスト教徒への攻撃をあおっている」と非難した。

◆防衛のため二重政策

 一方でパキスタン特有の事情も存在する。

 タリバンは、旧ソ連がアフガンから撤退後、混乱の中で誕生したが、パキスタン政府はタリバンを自国防衛の先兵として利用するために支援してきたとされている。とりわけ、パキスタンと対立しているインドとの戦いで、タリバンをパキスタン政府が利用してきた。

 外敵からの防衛のために過激な宗教教育を施し育てたタリバンの若者らの攻撃をパキスタン自身が受けるという皮肉な結果を招いているのだ。

 英紙ガーディアン(電子版)は3月28日の社説で、パキスタン政府の二重政策を「ダブル・ゲーム」と非難している。

 同紙は「政府が、自己の目的のために過激派を利用するダブル・ゲームをやめれば、状況は改善する」と指摘する。一方で「パキスタンは何十年もの間、通常兵器でインドに対し劣勢である部分を過激組織を利用して補おうとしてきた」ため、このダブル・ゲームは政府内深くに根を下ろしており、根絶するのは困難だろうと指摘する。

 その一方で、01年の米同時多発テロで潮目が変わり、本格的な「テロとの戦い」の始まりで過激組織にとって不利な状況ができてきているとみている。軍を動員した取り締まりで、過激組織は劣勢に立たされているとみられている。しかし、力だけで過激思想を根絶することは無理だろう。

◆不満が過激派の温床

 同時テロ後、パキスタン政府は米国の対テロ戦に協力する一方で、巨額の支援を受けてきた。その支援がどれだけ、テロ対策に有効に使用されたかははなはだ疑問だ。支配層の間には腐敗、汚職が蔓延(まんえん)し、これでは国民の支持を得るのは難しい。実際に国民の間に、米国への協力に対する反発が強くある。その辺の不満が、国民の間で過激思想が受け入れられる素地となり、過激組織の温床を生み出している可能性は否定できない。

 米紙ニューヨーク・タイムズは28日付社説「また爆弾。今度はパキスタン」で、「シャリフ首相は、テロ組織タリバンだけでなく『過激な考え方』をも根絶すると宣言した。だが、この『考え方』のほとんどは、パキスタン政府自身に原因があり、国家の敵に対する武器として利用できる限り、過激思想を意図的に黙認してきたところにある」と、パキスタンでのテロの根絶には、パキスタン政府のタリバン政策自体を改める必要があると指摘している。

 まず、統治者自身が過激思想と宗教的憎悪に対する毅然(きぜん)とした態度を示さなければテロの根絶は困難だ。

(本田隆文)