東南ア外交でさらに連携深める具体策を


 安倍晋三首相がカンボジアとラオスを訪問した。就任1年足らずで東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国すべてを訪ねたことになる。さらに連携を深める具体策が必要だ。

 「積極的平和主義」を支持

 ASEAN各国は中国の軍事力拡大に警戒感を強めている。また、フィリピンとベトナムは南シナ海の領有権問題で中国と対立している。

 安倍首相は「積極的平和主義」を掲げ、各国との安全保障面での協力を外交の柱としている。東南アジア訪問は「アジアの海を自由で開かれたものとする」という首相の考えを各国に伝え、連携して中国を牽制(けんせい)する上で時宜を得ている。

 カンボジアとラオスへの首相の公式訪問は、多国間の国際会議を除けば小渕恵三首相(当時)以来13年ぶりだ。今回の首相歴訪は経済と安全保障の両面で大きな意義がある。

 2012年の経済成長率はカンボジアが6・5%、ラオスが8・2%と高い。わが国にとって「中国リスク」を避け、生産拠点を分散する上で両国はともに重要だ。ASEANは経済共同体の発足を目指しており、両国との経済協力の強化でASEAN全体との経済連携を深めることが可能となる。

 日本が経済成長を続けるには、世界の成長センターであるASEAN諸国を無視することはできない。さらに、脅威を増大させつつある中国を牽制し責任ある行動を促すためには、日本とASEAN諸国の関係強化が必要だ。

 しかし、カンボジア、ラオス両国は中国との関係が深い。両国への中国の影響力は大きく、胡錦濤前国家主席は06年にラオス、12年にカンボジアを訪問。習近平主席も副主席当時の09年にカンボジア、10年にラオスを訪れた。

 その点で今回、中国が警戒する「積極的平和主義」への支持を両国から得られたことは期待以上の成果といえよう。

 また、カンボジアのフン・セン首相とは、国連平和維持活動(PKO)の能力構築支援など安全保障での連携強化で一致。共同声明では、中国とASEANが協議している海洋問題に関する「行動規範」の重要性が指摘された。

 安倍首相は両国のインフラ整備に積極的に関与し、中国に対抗する姿勢を鮮明にした。ラオスでは、民主党政権が昨年、7年ぶりに復活させた同国への円借款を活用して約90億円の供与を表明。カンボジアでは、高度な医療機器を備えた「救急救命センター」(50床)を日本の支援でプノンペン市に開設する考えを示した。

 同センターは両国の政府、医療界、産業界が一体となって建設に取り組んでいく。カンボジアの医師や看護師らの人材育成機能をも担い、両国の協力のシンボルとなるものだ。このような地に足の着いた日本の援助が「積極的平和主義」を現地の人に理解させる上で不可欠といえよう。

 東京会議でも論議を

 12月には、東京でASEAN特別首脳会議が開かれる。両者の連携強化に向けた論議を期待したい。

(11月20日付社説)