婚外子相続問題で拙速な民法改正は混乱招く


 未婚の男女間の子(婚外子)の遺産相続分は結婚した夫婦の子(嫡出子)の2分の1とする民法の規定を改め、同等にしようという同法改正案が国会に上程されている。先の最高裁での違憲判断を受けたものだが、法律婚への配慮を怠った安易な改正は家族崩壊に手を貸しかねない。慎重な審議が必要だ。

 最高裁が「格差は違憲」

 世界人権宣言は「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する」(16条3項)とうたっている。世界85カ国の憲法には家族を守護する条項が設けられている。それほど重視するのは、家族が安寧な社会や国をつくる基礎となっているからだ。

 そうした家族は男女が形成する婚姻共同体から始まる。その権利を保障するのが法律婚にほかならない。それで民法は家族条項を設け、婚姻については男女の一夫一婦制に基づき届け出で成立するとしている。

 また「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」とし、家族の生活を維持するための債務に関する連帯責任や、親権などの権利と義務を明示する。財産についても夫婦が協力し合い、時には子供の協力も得て維持・形成してきたと捉える。遺産相続は「残された家族の生活保障」という側面もあり、遺言や生前贈与、遺留分などの制度も法律婚を前提に作られてきた。

 それで民法は「法律婚の尊重と婚外子の保護」(従来の最高裁判断)という二つの目的を達するために、婚外子の相続分を嫡出子の半分としてきた。これは先人の知恵と言ってよい。

 ところが、先の最高裁決定は同等が世界の潮流としてこの規定を違憲とした。確かにフランスでは2001年の法改正で婚外子の相続分を嫡出子と同等としたが、一方で年老いた配偶者が遺産相続をめぐって家を失う事態を避けるために配偶者の取り分を大幅に増やしている。

 こうした配慮もしないで単純に同等にすれば、相続財産が家屋しかない場合、婚外子の請求で残された配偶者が路頭に迷う事態も生じる。これでは家族を守るべき民法が逆に家族を壊しかねない。

 自民党は民法改正案を了承する代わりに、配偶者が自宅に引き続き居住する権利の保護や配偶者の貢献に応じて遺産分割するための措置を、今後1年をめどに取りまとめるとしている。

 こうした措置は婚外子と嫡出子の相続格差をなくす法改正と併せて行うのが筋である。格差撤廃だけを先行させると、さらなる混乱を招きかねない。最高裁決定は「相続制度を定める際は、各国の伝統や社会事情、国民感情を考慮し、国民の意識を離れて定められない」とし、「どのように定めるかは立法府の合理的な裁量判断にゆだねられている」ともしている。

 配偶者への配慮が必要

 生活を共にしてきた配偶者らへの配慮もしないで、婚外子の相続分を嫡出子と同等とするのは合理的な裁量とは決して言えまい。このことに国会は留意し、立法府の責任を果たしてもらいたい。拙速な民法改正には賛成できない。

(11月19日付社説)