電力システム改革は大局的な視点に立ち議論を
発送電分離など電力システム改革のスケジュールを定めた改正電気事業法が成立した。独占状態が続いた電力市場に競争を促すことが狙いだが、安定供給の面などで重大な懸念がある。政府は大局的な視点に立ち、今後の詳細な制度設計を進めていくべきだ。
全面自由化を目指す
同法は、地域を超えて電力を融通する「広域系統運用機関」を2015年をめどに設立することが柱。付則には、電力小売り事業を16年までに全面自由化し、18年から20年にかけて各電力会社の送配電部門を切り離して別会社とする「発送電分離」の実施を目指すと明記した。
新規参入を容易にすることで、事業者間の競争を促し、電力料金の引き下げ、事業機会や消費者の選択肢の拡大を図る。安倍政権は、電力システム改革を成長戦略の柱と位置付け、今後10年間の日本の電力関係投資を、過去10年間の実績の1・5倍の30兆円規模に拡大するとしている。
しかし、改革の実施には慎重を要する。電力需給の調整を市場メカニズムにゆだねる仕組みとなるため、電力供給の安定性を損なう恐れがある。価格変動が激しく、電力が余れば料金が低下する一方で、電力が不足すれば、むしろ料金が上がる可能性もある。すでに自由化が実施された欧米諸国では、電気料金が値上がりした国が多い。
また、自由化された米カリフォルニア州で2000年から01年にかけて停電が頻発する電力危機が起きた。これは市民生活だけでなく、企業にとっても脅威だ。とりわけわが国では電気の質が厳しく管理されており、それが精密機器の高品質化を支える重要な要素となってきただけに、産業界は電力供給の在り方に敏感だ。
一方、原発再稼働の遅れで、電力需給が逼迫(ひっぱく)している状況の中、改革を進めることにも疑問が残る。これまで国策として推進してきた原発事業の位置付けが不明確なまま議論が行われている。
現在、原発停止による火力発電の燃料費の増加に歯止めがかかっておらず、燃料調達のために海外諸国との交渉力が低減している。まず、準国産エネルギーとしての原発を、今後も堅持していく方針を明確に打ち出すべきだ。
経済産業省の審議会で、国の中長期的なエネルギー政策を定める「エネルギー基本計画」の策定が進められている。これと電力システム改革との整合性を図ることも課題となる。
生活や産業に欠かすことができないインフラである電力の供給を市場メカニズムに頼ることは危険だ。経済的合理性を追求するあまり、エネルギー安全保障の観点が疎かになってはいけない。より大局的な視点に立ち、国としてあるべき電源構成を早期に示すべきだ。
慎重さが求められる政府
もともとこの電力システム改革は、東日本大震災以降、電力会社への世論の感情的な反発が高まる中、当時の民主党政権が着手したものだ。政府は、電力自由化のメリットとデメリットを冷静に見極め、慎重に議論を進めるべきだ。
(11月18日付社説)