習近平中国主席の軍事改革
抜本的に踏み込めるか
脅威に即応して戦う態勢に
中国共産党の中央軍事委員会改革工作会議で、習近平主席主導の大規模な軍事改革が11月27日に公表された。軍事改革については、「軍の最高指揮権を中央軍事委員会に集中させる」「統合作戦指揮体制の構築の推進、戦闘力を高めるための部隊編成の見直し、量から質の重視への転換」など、2020年を目指した「革命的な改革」が強調されていた。注目すべき重要なテーマであり、2回に分けて報告したい。
これまで軍事改革は、建国以来、国内外の情勢の変化に応じて繰り返されてきた。最大規模で本格的な改革は1980年代に鄧小平によって進められた100万人の兵力削減を伴う近代化施策で、今日の軍事大国化の基礎をなすものであった。
その後の江沢民・胡錦濤時代も非軍事的脅威や情報化戦争の出現などに対応して軍近代化政策は進められてきた。軍歴も軍功もない新世代の指導者には、党軍への依存が続く中で50万人、20万人とそれぞれ兵力削減はしたものの、抜本的な軍事改革に踏み込むことはなかった。結果として多くの高級軍人の汚職腐敗を許すような軍統率が続いてきたことになる。
その点で、今次の軍事改革は、軍人の反腐敗闘争を展開する中で、どこまで抜本的な軍事改革に踏み込めるかが注目される。習主席の軍との関わり合いは、前二者とは違い、軍との親和性が強い特色がある。周知のように軍と関係の深い父・習仲勲元副総理の威光を活用でき、清華大学卒業後には国防部長秘書という「軍務歴」を積んできた。その後の福建省など地方勤務でも国防動員部門の書記など間接的ながら軍部と関わってきた。また、彭麗援夫人は総政治部の前歌舞団長・少将で、軍人家族でもあった。
このような軍部との親密な関係を基に、習近平は中央軍事委員会主席に就任するや「戦いに勝てる軍になれ」と率直な要求を突きつけた。実際、第18回党大会で中央軍事委員会主席に選出された後の第一声が、「呼べばすぐ来る、来ればすぐ闘い、戦えば勝つ軍隊になれ」だったことに端的に表れている。それは今日の中国の安全保障態勢にあって、軍事・非軍事的脅威の拡大や危機事態への即応性を高める要求である。また、国防軍として戦える態勢は整っているのか、軍事革命が進む新しい情報戦に対応できる戦力は構築されているのかなどの危機感があり、軍事改革の方向が示唆されていた。
さらに、2013年秋の第3回中央委員会全体会議(3中全会)での「改革の全面深化」決議に合わせて軍事改革も強調されていた。それは軍統帥の頂点に立つ中央軍事委員会が軍権を掌握するだけでなく、「国防・軍隊建設改革領導小組」を新編し、自らその組長となって軍事改革に取り組む強い意欲を示すものであった。その軍事改革には、9月の抗日戦勝利70周年記念軍事パレードの訓示で宣言された30万人兵力削減も組み込まれよう。
それでは、今次軍事改革の着手に当たり何が問題なのか、から見ておこう。軍事改革の対象となりそうな問題を具体的に整理すると、第一に中国を取り巻く国際的な安全保障環境を踏まえて外からの脅威に対応できる態勢にあるのか、が挙げられよう。5月に発行された『中国国防白書』が表明した「覇権主義、強権政治、新たな干渉主義の台頭」への対応の必要性であり、それは米国のリバランス戦略に如何に有利に立ち向かうか、の課題でもある。
第二は、脅威が多様化する趨勢にあって軍事・非軍事両面の脅威に総合的に対応できる国家安全体制への改革もあろう。第三に情報化戦争に移行する中で、宇宙やサイバー空間を含めて解放軍は「勝ち戦が打てるか」をキーワードとする軍事改革の必要性もある。第四に解放軍は情報戦条件下で戦える統合指揮体制は整えられているのか、などの問題も挙げられる。
実際、これらの問題意識は去る8月1日の建軍記念日に際して「三軍の転換を図るべき」との習主席の訓示で、陸、空、海軍の順で精強化に向けた軍隊建設の改革目標やプロフェッショナルな軍人の育成、実戦的訓練、軍事予算や後方部門の管理など具体的な軍事改革項目が示されていた。
次に、軍事改革の発表が何故この時期となったのかであるが、中国の今日の安保環境に対する見方や国内外の事情が考えられる。まず安保環境の変化で、米国との新型大国関係を目指す外交が挫折を繰り返す中で、逆に日米同盟関係の強化やフィリピンなどへの軍事支援、さらには共同軍事演習の活発化などの進展に対応が急がれたのではないか。さらに、南シナ海埋め立てなどに対抗する米国の軍艦派遣などの強い姿勢にも危機感を感じたのであろう。
また、国内事情としては有事に軍は真に戦う態勢が整っているのかに懸念があり、軍内の汚職・腐敗の粛正や軍の聖域化、党軍としての奢りへの対処に迫られていた。さらに、現行の軍内縦割り体制の打破や即応性の向上など有事に即応できるよう、鈍重な指揮系統の軍事改革も急がれている。
さらに長期的には、中国経済の高度成長が鈍る趨勢にあって国防費の抑制に迫られ、効率的運用や30万人軍縮と関連して総参謀部など指揮部門の贅肉の削減への着手も急がれたのではないか。今次の軍事改革の具体的な内容などは次回にまとめたい。(敬称略)
(かやはら・いくお)