日本人拉致を忘れず許さず
無残な北朝鮮人権問題
茶番にすぎなかった再調査
胸にブルーバッチを付けているが、時々そのバッチは何ですかと聞かれるので、このバッチは「北朝鮮に拉致された日本人を救出支援するためのシンボルバッチです」と言うと、「そんなバッチもあるんですか」と怪訝な表情をする人がいる。
この人は北朝鮮による日本人拉致の問題に関心がないのか、それともそのような事実を知らないのか、あるいは2014年5月にスウェーデンのストックホルムで行われた日朝外務省局長級協議で「拉致被害者再調査」の合意に、「これで拉致問題の解決に目途が付いた」と歓喜雀躍した日本政府関係者の興奮ぶりを忘れたのかもしれない。私は、この合意が「茶番」にすぎないと述べたことがあるが、日本のメディアは競って帰国者数の報道をした。合意から1年半以上が経過したが、いまだに「進捗状況」についての説明がないばかりか、「政府は拉致問題の解決を忘れたのか」という声すら聞こえて来る。
折しも12月10日から16日までは「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」である。法務省のホームページによると、日本政府が北朝鮮当局による人権侵害問題に関する国民の認識を深めるとともに、国際社会と連携しつつ北朝鮮当局による人権侵害問題の実態を解明し、その抑制を図ることを目的として、「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律」が2006年6月に施行され、国及び地方公共団体の責務等が定められるとともに、毎年12月10日から16日までを「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」としたという。
そして、平成27年度の啓発週間周知ポスターには「救い出す、絶対に。」と大書され、「この海の向こうに、あの人がいる 取り戻す。必ず救い出す。拉致問題(赤字で大き目の文字)の解決のためには、私たち一人ひとりの強い想いが必要です」とある。さらに、「拉致問題は、我が国の喫緊の国民的課題であり、この問題を始めとする北朝鮮当局による人権侵害問題への対処が、国際社会を挙げての取り組むべき課題とされる中、この問題についての関心と認識を深めていくことが大切です」とあるが、問題の解決が喫緊としているのに、内容は「御役所用語」でイマイチ説得力に欠ける文章である。
この啓発週間にあわせて日本政府は「国際社会での北朝鮮の人権状況の改善や問題の解決に向けた機運の高まりを背景に、今回、国連関係者、関係国政府高官、有識者等を招き、国際社会との連携を通じた拉致問題解決の方途を内容とした国際シンポジウム等を開催」するとのことだが、これまた今までこの類のシンポジウムは何度も開催してきたのではないのか。
シンポジウムの度に「国連関係者、関係国政府高官、有識者」と称される人物が大所高所から意見を述べてきた。国民が拉致問題の解決に関心を持ち、認識を深めれば問題は解決するとでも言うのだろうか。シンポジウムの「有識者」の一人に、ストックホルムの合意で帰国者数を競って報じたマスコミ関係者を入れたらどうだろうか(と、このようなのんびりとしたことを言っている場合ではないのだが)。
このような鷹揚な日本側の対処に対して、国連総会の人権問題を担当する第3委員会は11月19日に、北朝鮮当局が行っている人権侵害を非難する決議文を採択した。決議案はこれまた11年連続で採択されており、今回は賛成112、反対19、棄権50で中国は反対に回った(中朝関係が冷却・険悪な関係にあるなどとも言われているが、実際はどうなのか)。
北朝鮮の人権侵害は「人道に対する罪」に当たり、その責任者である金正恩以下の幹部を国際司法の場で裁くように求めたのである。金正恩ら責任者の国際刑事裁判所付託に言及したのは、昨年に続いて今年で2回目となるが、金正恩は「また、くだらない決議をしたもんだ」と高をくくっているかも知れない。と言うのも、国連安保理の常任理事国の中国とロシアは「特定国に対する選別的な決議案採択は国連憲章違反である」などと反対の立場を示しているからだ。
中朝国境の中国側の高台から北朝鮮を見下ろすと、案内人が「あそこで公開処刑が行われる」とか「政治犯収容所は山の向こうです」などと説明してくれる。北朝鮮の人権問題は、政治犯収容所の即時閉鎖と政治犯の無条件釈放である。政治犯収容所の悲惨・無残な実態は、収容所から脱出してきた申ドンヒョクの証言などからもうかがい知ることができる。
もっとも、北朝鮮は申ドンヒョクやほかの脱北者の証言などに食い違があるとして「真っ赤な嘘、人間のクズ」と悪態をついているが、20万人とも言われる政治犯収容所は未だ存在している。金正恩には「人道」「人権」などという思考はないだろう。万が一、あったとしてもそれを実施すれば自らの政権の崩壊につながることを知っているから、拉致問題の解決には容易には応じないだろう。シンポジウムでの有識者の発言を期待している。(敬称略)
(みやつか・としお)






