安定を装う中国共産党3中全会
格差・腐敗に不満鬱積
「改革の深化」は前途多難
中国共産党の重要会議である第18期中央委員会第3回全体会議(18期3中全会)は、北京市内の軍関係ホテルで9日から4日間の日程で開催された。
習近平指導体制の重要方針を決める会議は、厳しい状況下で行われた。初日の会場近くでは、全国から集まった1000人以上の陳情者が幹部の腐敗などに対し集団で抗議する異例の事態があった。この3中全会に狙いを定めた事件は、公安当局が大量の警官を動員した厳戒態勢の中で起き、習指導部が受けた衝撃は大きい。
また、これに先立ち北京市中心部・天安門前への車の突入・炎上や、山西省共産党委員会庁舎前での連続爆発といった不安事案が続出した。これら一連の事件は国民の共産党政治への不満の表れと見られている。これは中国内に鬱積(うっせき)する国内矛盾に起因し、”小平以来進められてきた改革開放政策の負の遺産でもある。皮肉なことにこれら改革の負の部分への対策が今次3中全会の主テーマに掲げられながら、それへの抗議が審議の前に暴発したことになる。
『新京報』による昨秋の世論調査では、「今後、改革すべき問題は何か」に対し、1位が経済格差是正で81・3%、2位が汚職腐敗対策で75・5%、さらに3位の環境問題69・9%に続いて医療、住宅など中国社会が抱える問題点が挙がっていた。これら中国内に抱える課題に対して、習主席は「中国の夢」を掲げ、求心力の強化を図るとともに「富国強兵、中華振興」を目標にしている。
その中で、今次3中全会はなぜ注目されたのか。「3中全会」は、これまでも歴史の流れを変える数々の重要な節目になってきた。例えば、第11期3中全会(78年)では”小平路線の確立と中国の経済発展の起源となった改革開放政策が採択されて、大転換になった。今次3中全会は、習指導体制が発足後初の方針や政策を検討するものだ。
しかし、3中全会を前に、政治面では薄熙来事件により中国共産党内部の権力闘争が露呈し、薄氏を担ぐ「中国至憲党」のネット上での設立などがあった。経済面では今年6月にシャドーバンク問題など金融市場の混乱があり、先行きを懸念する声が高まった。3中全会に先立ち、8月末に中央政治局会議が開かれ、経済の持続可能な発展に向けて「全面的な改革の深化は党と国家にとって最も重要」と認識されていた。同時に党員による汚職の多発に対して反腐敗を全面的に推進することも決議され、形式主義、官僚主義、享楽主義、浪費という「四つの風潮」の取り締まりが決められていた。
正念場を迎えた習指導部はこの3中全会で、体制維持のためには経済の持続的発展が不可欠と見て「改革の深化」を根本目標としている。そのためには、「国進民退」といわれる国有企業優遇政策などいびつな経済政策の改善が必要になる。同時に国民の不満の解消に迫られ、まず汚職腐敗への対策が必要になる。
3中全会初日には『人民日報』をはじめ『環球時報』『解放日報』『新京報』などの官製メディアを動員して改革路線を強調し、そこでは「アジアという場での経済発展は、集権統治の下でより効果的に継続できる」という体制擁護の記事まで出されていた。
しかし、一部の既得権益層が富裕層になる社会構造が定着する中で、党権力と一体化した既得権益層に改革のメスが入れられるのか、なお疑念が抱かれている。昨秋の党大会で習総書記は、「汚職対策を誤れば党と国家にとって致命傷になる」との悲痛な決意を示していた。政治局常務委員の中にも既得権益層の代表が多数いる中で、共産党が自らの身を切る汚職対策をするのは極めて難しい課題であり、この重い問題は稿を改めて論ずる必要があろう。
18期3中全会を終えて、今後の注目点としては、第一に共産党政権が国民の信任を得られるのか、である。政治改革への取り組みを先送りする中で共産党が直面する独裁統治の正統性が問われるが、その具体的な対応策が注目される。特に社会矛盾の構造化が進む中で「改革の深化」は進むのか、その実態と実効性が問われる。
第二は、3中全会の中心テーマであった経済の持続発展の可否で、そのための具体的な改革の処方箋は何か、それが断行できるか、である。改革の深化は市場経済の推進になるが、これまで国家の手厚い保護を受けてきた国有企業の改革は不可避となろう。巨利を得る既得権益層への切り込みが必要になるが、処置の実効性や推進状況が注目される。
第三は、中国社会に蔓延(まんえん)している汚職腐敗が撲滅できるか、である。現に習政権になって9人の大臣級の汚職摘発をしているように、取り締まりは小物だけでなく大物も含めた「虎も蝿も」と言われる徹底した対処が進められている。しかし、汚職取り締まりの徹底は、薄元政治局員の裁判が象徴するように権力闘争にもつながっている。習政権は身内の巨大な既得権益層への切り込みができるのか、が注目される。
そのほかに、3中全会では国内治安維持のための国家安全委員会の新設、司法の独立、地方組織の改革なども決められたが、いずれにしても共産党独裁体制を温存したままで実効性のある具体策が取れるのか。「中国の継続した発展」は早晩、難題に直面しよう。
(かやはら・いくお)