ミャンマー、有能な人材を幅広く登用せよ


 ミャンマー総選挙で、アウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)が、軍人枠を除く改選枠の3分の2超の議席を獲得し、国会の過半数を確保する見通しだ。1945年6月生まれのスー・チー氏は今年で70歳。15年に及んだ自宅軟禁を経て、古希の祝福を国民から受けた格好だ。

 総選挙で最大野党が圧勝

 スー・チー氏が主導権を握ることになる次期政権は、国軍支配からの脱却と民主化推進を看板とする。ただ、政治手腕は未知数だ。

 折しもスー・チー氏は英BBC放送などのインタビューで、「次期大統領には何の権限もない」と明言した上で「私がすべてを決定する」と強調した。大統領は“操り人形”にすぎず、院政を敷くと公言したも同然だった。スー・チー氏は強烈なリーダーシップで党を牽引(けんいん)してきた一方、人の意見に耳を貸さない頑固一徹の側面も指摘されている。

 今回の総選挙でも、NLDは候補者一人ひとりの主張や政治的力量で票を集めたわけではない。スー・チー氏も「候補者個人ではなく、党の名前(NLDかどうか)で投票してほしい」と常に訴えて回った。またNLDは各候補者に対し「メディアの個別取材に応じてはならない」と箝口(かんこう)令を敷いた。政治家として未熟な候補者がボロを出し、冷や水を浴びせられるようなリスクを封印したのだ。

 全体の15%と比較的女性が多くを占めるNLDの候補者は、いわばスー・チー・チルドレンだ。専らNLDの追い風に乗って政界に進出した素人集団に等しい。大量当選を果たしたNLD新人候補者もスー・チー氏に対する個人崇拝が顕著だ。

 その意味では、2009年の我が国の総選挙に似ている。この選挙では、民主党が308議席を獲得し、議席占有率は64・2%と空前絶後の大勝利を収めた。だが、その後がいただけなかった。首相発言がぶれ、安全保障観も欠落した民主党の失政は、次の総選挙で自民党の政権返り咲きを招いたのだ。

 この轍を踏まないためにNLDに要求されるのは、実務に長(た)けた人材を幅広く登用することだ。さらに軍や与党・連邦団結発展党(USDP)との協力の道を開かないと、早晩、立往生を余儀なくされよう。

 国家的課題は山積している。15ある少数民族武装勢力との和平交渉は、まだ半分の8勢力と合意したにすぎない。ロヒンギャ問題に見られるような、圧倒的多数を占める仏教徒とイスラム教徒との宗教対立を緩和するなど、国民和解も急務だ。

 ミャンマーが再び混乱に陥ったり、疲弊したりすることがあってはならない。喜ぶのは、影響力拡大を狙い、手ぐすね引いて待っている中国だけだ。

 順調に経済成長できるか

 東南アジアの最後のフロンティアとされたのはベトナムとミャンマーだった。ベトナム経済は発展し、タイをもしのごうとしている。一方のミャンマーは、今後も順調に経済を成長させることができるか。南シナ海とインド洋を結ぶ地政学的要衝にあるミャンマーのこれからが注目される。

(11月13日付社説)