中国は台湾の民主主義を尊重せよ
中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統がシンガポールで歴史的な会談を行った。内戦の末に1949年に中台が分断してから66年、最高指導者同士が会談するのは初めてだ。
双方は中国と台湾が不可分の領土であるとする「一つの中国」の原則の下、経済・文化交流を拡大させることと、台湾海峡情勢の安定のために当局間のホットラインを開設することに合意した。
統一への強い抵抗感
中台首脳会談における習主席の狙いは、「一つの中国」の立場を確認することで中国の台湾「掌握」を示すことだ。一方、馬総統にとっては、任期満了を控えて、会談を中台関係改善の一連の政策の「集大成」とすることであろう。
注目されるのは、会談の中で習氏が「両岸の中国人が自らの問題を解決できる知恵と能力があることを示すべきだ」と強調したことだ。中台関係への米国の関与を排除しようとするものだと言える。
「中華民族の偉大な復興」を掲げる習主席が目指しているのは、一党独裁体制を敷く中国共産党政権主導の中台統一だ。首脳会談開催も、そのためのステップと見なしていることを忘れてはならない。
習主席が統一の切り札としてきたのが経済関係の強化だ。台湾の輸出額に占めている中国向け比率は2000年の24%から14年には40%に上昇した。中国にとっては高い技術と豊富なビジネス経験を持つ台湾企業からの投資も魅力だ。習主席は首脳会談で、台湾が中国の「一帯一路(シルクロード)」構想に積極的に参加し、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に「妥当な形式」で加盟することを歓迎すると表明した。
だが、台湾の野党や学生らは中台首脳会談に反発している。来年1月の台湾総統選で政権奪回を目指す民進党の蔡英文主席は「台湾側の尊厳や中台の対等性が守られなかった」と批判している。自由・民主主義の原則の強調だ。
総統選では政権が国民党から民進党に代わる可能性が高い。民進党は「一つの中国」を否定し、独立志向が強い立場だ。中国側は中台首脳会談を開くことで民進党を揺さぶって「一つの中国」を受け入れさせようとしたとみていい。
しかし、どのような政権を選択するかは台湾住民が自主的に決めることだ。中国側も選挙結果を尊重し、民進党の候補が総統に選ばれたとしても誠実に対応すべきである。
台湾住民の圧倒的多数は「現状維持」を望んでいる。民主主義の根付いた台湾の人々には統一への強い抵抗感があり、中国の思惑は実現しそうもない。
ミサイルは大きな脅威
中国は台湾の対岸に1500発のミサイルを配備している。習主席は馬総統に「台湾に向けたものではない」と述べたが、台湾にとっては大きな脅威だ。シーレーン(海上交通路)の安全や地域の安定を確保する上でも懸念材料となる。台湾側にあるのは共産主義へのアレルギーであり、「現状維持」の希望だ。習主席は台湾の民主主義を尊重しなければならない。
(11月10日付社説)