南・東シナ海の中国人工拠点

太田 正利評論家 太田 正利

我がシーレーンの危機

軍事に利用される可能性も

 中国による東シナ海のガス田開発がらみの海洋施設建設の実態が明らかになってきた。そもそも、日中両国は、既に2008年に日中の中間線に隣接する白樺ガス田を共同開発し、中間線を跨ぐ特定海域を共同開発区域とすることについて合意していた。然るに中国は2010年に合意実現に向けての条約交渉を延期し、中断したままになっている。当然のことながら、先方に対し、開発を中止し交渉の早期再開を求めることが必須である。かかる実態を事情に通じていない国際社会に幅広く訴え、そのような動きを牽制する必要があるからだ。事実、中国側は交渉に応じないのみならず、近年、開発を加速させているほどだ。

 大分前になるが、日本政府は、去る7月22日、中国が東シナ海のガス田開発に絡み建設した海上施設(プラットホーム)の公表に踏み切った。施設の増設は13年に3箇所、14年に5箇所、15年に4箇所と増え続けている。安倍総理周辺によれば「雨後の竹の子」のようだ! 日中中間線の中国側海域であっても、海底ガス田は地下において繋がっているわけであり、このままでは日本側のガスが吸い取られ続ける可能性が否定できない。

 さらに重要なことだが、かかる海上施設が軍事利用されることだ。この場合、安全保障上の問題に発展する危険性が大である。中国は既に南シナ海において、南沙(スプラトリー)諸島の岩礁を埋め立て、飛行場や通信施設を整備している。防衛省幹部によれば、東シナ海においても、海上施設が軍事拠点化の足掛かりとなり得るとの由。

 去る8月4日、岸田外相と中国の王毅外相とのクアラルンプール(マレーシア)における1時間にわたる会談の際に、岸田外相は、東シナ海の日中中間線付近において中国によるガス田開発につき一方的な開発を手控えるよう要求した。事実、10年7月以降中断したままになっている共同開発に向けた条約締結交渉の再開を求めたのである。然るに王氏はガス田開発について「争いのない海域での中国の主権行使」だとして日本側の要請を拒否した。これに対し、岸田外相は、共同開発に関する08年の合意に触れ「合意の理解が違う」と指摘し、さらに「日中の立場が違うからこそ話し合いが大事だ」として実務レベルで協議の継続を提起し、王氏もこれに応じた。

 実は中国は東シナ海のみならず、南シナ海においても埋め立てを行っており、事実、中国商官は「南シナ海の埋め立て作業は近く完了し、港湾は軍事施設の建設を進める」と言明している。これに関連してヴィエトナムの西沙諸島のウッディー島に2・4㌔㍍の滑走路が完成しているし、南沙諸島でも14年から大規模埋立作業を実施中である。特に92年に米軍がフィリピンから撤退した後、2000年代、ミスチーフ礁占拠・南沙諸島に本格的進出し、14年以降大規模埋め立て作業実施中である。防衛省は、5月に、南シナ海での中国の活動について、その軍事基地化は日本のシーレーンに重大な影響を及ぼすと警戒を表明した。

 事実わが国の海上貿易量の半分、原油にいたっては8割が東・南シナ海に依存している。

 東・南シナ海を通過する日本船舶数は年間約1万6800隻、総貿易量の同海域依存率53・7%、原油については88・3%、LNGでは66・2%という具合だ。このように、海洋国家日本のシーレーンは、経済と国民生活を支える大動脈で、その平和と安全の維持は死活的重要性を有する。

 仮に南沙諸島における日本のシーレーンが中国軍の管轄下に入り、迂回経路を余儀なくされた場合、さらに3日間の時間とタンカー1隻につき3000万円の費用が必要になる由(政府答弁書)。

 また、人工島に戦闘機発着用の滑走路が建設されると、最悪の場合、フィリピン南~カリマンタン・スラウエシ間~シンガポール沖という迂回航路も使用できず、航路期間はさらに2倍かかり、日本の経済や国民生活が死活的影響を受けることや必至であろう。

 そもそも、中国は東シナ海におけるガス田開発の実態を公表していない。習近平国家主席は、海洋権益の保護を「核心的利益」として一方的に開発を継続する強行姿勢を崩していない。それのみか、中国外務省の陸慷報道局長は、日本による「ガス田開発は争いようのない中国の管轄海域で行われており、日本側のやり方は故意に対立を作るもので、東シナ海情勢の管理や中日関係の改善にいかなる建設的意味も持たぬ」と批判はするも、「中国は東シナ海問題で日本との意志疎通の継続を望んでいる」とした。

 ところで、武居智久海上幕僚長は7月29日、ワシントンで南シナ海の現状につき、中国がサンゴ礁の埋め立てを関係国の反対にもかかわらず急速に進めており、人工島が軍事目的で使用された場合、南シナ海全域が中国の軍事的影響圏に覆われる可能性があるとし、さらに、「国防政策が不透明であれば、不安感や不信感が生ずる、独自の国際法解釈を押しつければ、不測な事態発生の可能性を否定できない」という。要するに、4月の日米防衛協力指針(ガイドライン)の再改訂などの動きに応じ「海自はこれまで以上に米海軍との相互運用の強化により米軍のプレゼンスを支えていく」ということなのだ。

(おおた・まさとし)