戦略的な中国軍事パレード
核抑止力で中露が連携
国内権力闘争に“勝利宣言”
中国で9月3日に反ファシスト・抗日戦争勝利(抗日戦勝)70周年記念の軍事パレード(観閲式)が天安門広場で開催された。観閲式には1万2000人の軍人、戦車やミサイルなど500を超える兵器及び戦闘機など200機が参加し、最大級となった。
この観閲式を通じて、軍事力の近代化ぶりだけでなく、中国を巡る今日の安全保障環境の縮図も浮き彫りにされた。中国建国以来15回目になる今回の軍事パレードの特徴は、建国を祝う国内的行事ではなく「反ファシスト戦勝利」を名目に歴史問題の再確認を迫る国際的な行事としたことだ。そこには中国が置かれる国内外の安保環境に対する戦略的な狙いも透けて見える。
これまで観閲式は、最初に1949年10月1日の建国宣言後に毛沢東によって挙行され、その後は84年に鄧小平によって陸・海・空軍だけでなく戦略核弾道弾部隊や武装警察部隊、女性民兵なども含めた建国記念行事として再開された。次いで99年に建国50周年記念として江沢民によって、建国60周年記念は胡錦濤によって09年に実施され、この年に海軍の観艦式が別に青島沖で催された。
習近平は建国70周年記念の19年を待たず、「反ファシスト・抗日戦勝利記念」を掲げながら実質的には「抗日戦勝利記念」とし、大々的に共産党軍が日本軍国主義を撃破したと強調したが、そこには戦略的に練られた国内外への多様な狙いを見ることができる。
まず、国内的には共産党独裁統治の正統性の証として抗日戦に参戦した平均年齢90才の八路軍の老革命兵士を先頭のトラックで走らせる演出までしていた。古参兵士の出場で「日本軍国主義を打ち負かした」実績を誇示するだけでなく、それを通じた習政権への求心力の強化も図られている。また、就任以来展開された反腐敗・汚職闘争が権力闘争の色彩を強める中で反対勢力を抑えた権力闘争の勝利宣言でもあった。高級将軍が汚職にまみれて士気が低下した解放軍を晴れ舞台に立たせることで士気を鼓舞する狙いも見て取れる。
そこで注目点を整理しておこう。観閲式は、長安街の路上走行部隊とその上空を飛行する航空機部隊があり、登場した兵器の84%は国産新兵器とされた。地上パレードでは99A式戦車が先頭を走り、続いて水陸両用戦車や空挺降下用の戦車などが出現し、南シナ海を睨んだ立体的な機動力の強化を窺わせた。その他に各軍の新対空ミサイル、高性能レーダー、後方兵站資機材などが出現し、女性看護婦軍団も参加していた。
空中パレードでは陸軍の攻撃ヘリなど多様な作戦機が出現したが、空軍の早期警戒機「空警-500」、中国初の空母「遼寧」の艦載機「殲15」などが初公開された。また沖縄、台湾、フィリピンを通る「第1列島線」を突破して遠海空域で飛行演習を行う空軍の新型長距離爆撃機「H6K」や8㌧の爆弾を搭載できる「殲11B」戦闘爆撃機などが出現した。
5月発表の「中国の軍事戦略」(国防白書)は「『陸軍重視・海軍軽視』の伝統的思考の打破」移行を打ち出しており、統合運用や両用戦、海・空軍を重視した新軍事戦略に基づく新装備が多く注目された。さらに今次式典では習主席演説で陸軍軍区の改編など30万人兵力削減が公表された。
戦略核ミサイル部隊では7種の新型ミサイルが登場し、北米大陸を射程とするICBMとして東風31A号、東風5B号からグアムを射程に収めるIRBM東風26号の初出現、さらに空母キラーと呼ばれる弾頭の終末誘導ができると見られる東風21D号、長劍10対艦巡航ミサイルなどが注目された。
総じて米軍脅威を意識し、情報化戦争の新兵器や無人機の開発などを進め、中国外交が米国に対等を求める新型大国関係を追求するなかで、サイバー攻撃や心理戦、輿論戦、法律戦の「三戦」攻撃などに加えて、太平洋分割管理を提案するのに相応しい軍事力への近代化が逐次進んでいると見てよかろう。これら中国軍事力の近代化の進展ぶりの誇示はアジア周辺国への威圧力となっている。
次に今次パレードの国際的な狙いとその達成度が注目されるが、テーマを「反ファシスト戦勝利」とすることで、記念行事を国際化し、歴史問題を通じて共産党政権の正統性やその成果を国際社会に強調していた。その結果、31カ国の首脳が式典に参列しただけでなくロシア、パキスタン、キューバなど外国軍隊が特別参加することで国際的な連帯や歴史認識の共有を誇示することができた。
特にロシアとは、5月のモスクワでの反ファシスト戦勝70周年記念観閲式に習近平主席が参列しており、9月のプーチン大統領の北京観閲式への参加は象徴的である。近年の南シナ海問題やウクライナ問題で米欧諸国との対立が激化する中で、中露両国の連携強化を誇示した効果は大きい。また韓国の朴大統領も米国などの忠告を振り切って参列したが、それを北朝鮮代表とは対照的な接遇で厚遇するメッセージも出された。
逆に日本や欧米諸国の首脳は参加しておらず、中国の国際的なアピールが不十分なものとなったことも否めない。特に今次パレードは核ミサイル分野で抑止力強化を見せつけており、これまでの中露両国の連携強化を踏まえて、今後のイランや北朝鮮の核開発阻止など核管理への中国の対応と影響力が注目される。(敬称略)
(かやはら・いくお)






