国民の不満強める天津爆発事故の情報規制
100人以上が死亡した中国天津市の大規模爆発事故では、中国政府の情報規制に厳しい目が向けられている。
汚職の可能性も浮上
爆発の際には、大きな爆発音と共に高さ数十㍍のきのこ雲が上がり、広い範囲で地震のような揺れが感じられたという。現場にできた巨大な穴が、そのすさまじさを物語っている。日系企業も被害を受けた。
火災の通報を受けた消防隊が現場の倉庫に保管されていた危険化学物質に放水したことで爆発が生じたとみられている。消防士は「(現場に)水をかけてはいけない化学物質があるとは誰も知らせてくれなかった」と中国メディアに証言している。
爆発から1週間が経過したが、事態収拾の見通しは立っていない。貨物の取り扱い量で世界有数の天津港は機能不全に陥ったままだ。現場の空気中から高濃度の有毒な神経ガスが検出されたとの報道もある。
事故をめぐっては不審な点も多い。中国の法律は住宅地から1㌔以内に危険化学物質の保管施設を造ることを禁じているが、事故では現場から数百㍍の範囲にあるマンション群が壊滅的な被害を受けた。倉庫が建設されたのはマンション群の完成後の2013年だ。
なぜ、このような重大な法律違反が見過ごされたのか。捜査当局は徹底解明しなければならない。
注目されるのは、中国共産党中央規律検査委員会が国家安全生産監督管理総局トップの楊棟梁局長(閣僚級)について、重大な規律違反と違法行為で調査していると発表したことだ。規律違反などの内容は不明だが、楊氏は中央政府で事故への対応を統括する立場にあるほか、12年まで同市常務副市長を務めていた。
化学物質の倉庫を管理する「瑞海国際物流」の経営幹部も拘束されており、両者の関係を指摘する向きもある。同社は事故現場の倉庫で規定を大幅に超える危険化学物質を保管していたとされる。これができたのは政府の大物幹部の後ろ盾があったためとの見方も出ており、捜査当局は背後に汚職などがあるかを調べている。
大きな被害が生じたにもかかわらず、習近平政権は事故についての報道・情報規制を強めている。政府への反発が高まることを警戒しているからだろう。
しかし国内では政府の公式情報が不足しているため、混乱が拡大している。このままでは政府への不満はさらに強まろう。損壊したマンションの住民らは住宅の買い取りなどの補償や、有毒物質が拡散して汚染が広がったことへの賠償などを要求して抗議活動を展開した。
中国では経済性を優先するあまり、工場などの生産施設で安全管理が行き届いていない。このため、人為的なミスによる大規模事故が後を絶たない。2013年11月にも山東省青島市で石油パイプラインの亀裂から大規模な爆発が発生し、62人が死亡するなど甚大な被害が出た。
安全軽視の共産党政権
共産党政権の情報規制は、安全軽視の体質を示すものとも言える。これでは国際社会で「中国異質論」が広がるばかりだ。
(8月20付社説)