周氏無期判決、反腐敗に名を借りた権力闘争


 小役人だけでなく、大物政治家の汚職も許さないという意味の「トラもハエもたたく」とのスローガンを掲げた中国の習近平政権にとって、最高意思決定機関である共産党中央政治局常務委員会のメンバーだった周永康氏の裁判こそは、“反腐敗ショー”の最大の見せ場になるはずだった。

 1949年の建国以来、常務委員経験者が初めて汚職で有罪判決を受けたのだ。

習政権には不本意な結果

 しかし、周氏の裁判は、あっけない幕切れだった。反腐敗運動の成果を国民に見せる場となるはずの裁判は非公開で行われ、先月22日に始まった裁判は公判の日程すら発表されなかった。法廷でのやりとりがインターネットで公開された元重慶市トップ、薄熙来氏の裁判との違いは大きいものがある。

 判決も予想より軽い無期懲役だった。習政権にとって不本意な結果のはずだ。旧政権グループや守旧派の抵抗に遭った習政権が、妥協した可能性が高い。共産党指導者と長老が参加する8月の重要会議、北戴河会議の前に決着を付けておく党内事情があったもようだ。

 習政権が進める反腐敗運動に対する党内の反発はすさまじい。習国家主席は、これまで何度も刺客を送り込まれたとされている。加えて、米メディアは先月、習主席の右腕であり反腐敗運動を主導する王岐山氏のスキャンダルを報じたばかりだ。

 周氏は石油閥の総帥としてエネルギー業界に長年君臨しただけではなく、警察、検察、裁判所を統括する党中央政法委員会のトップを5年間務めた。政財界に広範な利権のネットワークを築き上げ、周一族の不正蓄財の金額は1000億元(2兆円)とも報じられた経緯がある。しかし、裁判で認定された周氏とその家族の収賄額は約1億3000万元(約26億円)でしかなかった。

 元来、中国に司法の独立はない。それは政権党の共産党による介入という次元ではなく、共産党は司法に対し指示を出す立場だ。裁判は、党が判決を決めて司法がその手続きを取る「政治裁判」でしかない。今回も、判決が既に決定済みの政治ショーだ。

 そもそも反腐敗運動は汚職一掃に名を借りた権力闘争だ。中国において権力と利権は表裏一体である。習政権は江沢民元国家主席率いる上海閥を追い詰め、彼らが握っていた鉄道や石油の利権を取り上げることにも成功した。

 習政権としては、庶民の圧倒的支持を獲得し求心力を高めたい。貧富の格差にあえぐ庶民にとって、権力を使って私腹を肥やしてきた高官の摘発は称賛の的だ。

 また、対外的な強硬路線でナショナリズムを高揚させることで、低迷し始めた経済の負の効果を抑えようとしている。

避けられないしっぺ返し

 いずれも国家が抱える根本的問題の解決を回避して、安易に求心力強化を狙っているにすぎない。

 いずれそのしっぺ返しは、習政権自身が受けることを覚悟しなければならない。

(6月16日付社説)