親中反共二極化で迷走続く香港
選挙改革、民主派の声遠く
中国の「政治改革案」は否決か
中国本土への依存を深める香港政府は、昨年8月末に中央政府が決定した普通選挙に向けた政治体制改革案を、17日に立法会(議会=70議席)で審議入りさせるが、早ければ18日に否決される公算が大きい。法案可決を支持する親中派や親政府派と、「ニセの普通選挙だ」と反対する民主派の溝は埋まらず、香港社会は二極化による対立が鮮明になっている。
(香港・深川耕治)
あす立法会審議入り
昨年8月31日、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が決めた2017年の香港行政長官選挙をめぐる普通選挙改革案は、有権者に1人1票の権利を与えながらも中国政府の意向で民主派の立候補が事前排除される仕組みとなっている。中国共産党政権に反対する民主派は「ニセの普通選挙だ」と猛反発し、党派を問わず立候補しやすい「真の普通選挙改革」を求め、昨年9月から79日間かけて「雨傘革命」と呼ばれる幹線道路占拠座り込みデモを展開。これに対し香港政府は昨年末、強制退去を執行し、今年4月、中央政府の意向に沿ったままの選挙改革案を立法会に審議入りする手続きを取った。
選挙改革案の可決には定数70の立法会で3分の2以上となる47人以上の賛成が必要となるが、否決が濃厚だ。民主派の立法会議員27人のうち、4人以上が賛成に回れば、政治改革案は通過可能となるが、香港政府ナンバー2の林鄭月娥政務官が「切り崩しはいまだに一人もできず徒労に終わった」「改革案が可決される可能性は極めて低い」と述べるほど、見通しは暗い。
否決されれば、双方の主張とも通らず、2017年の次期行政長官選挙は2012年の選挙時の制度のまま親中派が大半を占める選挙委員会(1200人)による現行の間接選挙となり、選挙委員会の構造上、親中色が強まることが予想されている。
9日、梁振英行政長官は香港トップとしてカナダ・トロント入りし、「改革案が否決された場合、政治体制改革の処理を続けるのはやめ、経済発展と民生改善に改革の全力を注ぐ」と述べ、法案否決を視野に対処する意向を示している。
香港の最新世論調査(6月2~6日調査=香港大学など3大学合同)によると、改革案の支持と反対が42・8%の同率となった。反対の割合は調査開始以来、過去最高となり、賛否は拮抗(きっこう)し、「支持が5割を超えれば民主派も民意を反映して支持に回らざるを得ない」と主張していた親中派の思惑とは違う結果になっている。
香港では年間4720万人(14年調査)の中国人観光客が押し寄せ、高級ブランド品や日用品を“爆買い”する迷惑行為が多発。中国本土からの巨額投資マネーの流入で不動産価格も高騰し、物価上昇率も年間4~5%の高水準で香港市民の不満が増大している。
先月31日、中国政府高官と香港立法会議員50人超(民主派は14人)は香港と隣接する中国広東省深圳市内で会談。中国側の李飛・全人代香港基本法委員会主任は「全人代が最高権力を持つ立法機関」とし、同決定に変更の可能性はなく、22年以降の行政長官選にも適用されるとの見解を示したことで民主派議員は反発し、翻意する可能性は完全に失われた。
香港の民主化、二極化で迷走続く
12日、林鄭政務官は2017年の行政長官選に立候補せず、任期満了で引退することを表明。「改革案は可決すべきものであり、香港の政治制度を発展させる上で中国の責務と統治権限について香港市民が誤解しているのではないか。否決なら、現状維持ではなく、後退を意味するだろうし、次の行政長官が政治改革を最初から始めるのは苦難に満ちている」と述べている。
香港の全国人民大会代表である范徐麗泰(リタ・ファン)元香港立法会主席(議長)は10日、「議案が可決する可能性は小さいが、中央政府が姿勢を変えることはないだろう。改革案が否決されれば、香港社会は対立、分断、中傷、理性に従わない行動に今以上に長く耐えなければならなくなる」と憂慮した。
一方、民主派の梁家傑立法会議員(公民党)は「昨年8月末の中国政府による決定で制約を受けた香港政府の最終案を香港市民に支持してもらうことで真実を隠そうとしている。香港市民はじっくり考え、行政長官の候補者を指名する権利を今後、断念することを求められている意味だと分かっている」と述べ、否決票を投じる意志を表明。
民主党の羅致光立法会議員は「私は選挙委員会の元委員だが、私を含め、民主派で立候補しようとする人は大幅に減り、一層欠陥のある選挙になるだろう」と悲観論を強める。
法案の議決が行われる立法会議場前には当日、法案通過を支持する親中派、否決を支持する民主派の各グループが結集して10万人以上が集まる見通し。香港警察は8000人の警官を動員して警備に当たる見込みだ。昨年9月末から79日間続いた香港民主派による雨傘革命と座り込みデモ以来、再び民主派と親中派が激突することになる。






