中露接近に備えた防衛力を

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

新軍事技術を露が売却
日本は共同開発に投資せよ

 「防衛計画の大綱(防衛大綱)」見直しに向け防衛力のあり方の検討作業が大詰めを迎えていると推察する。関連して日米防衛協力の指針(ガイドライン)も昨年から日米合意の下で検討が進められている。考えてみれば、現ガイドラインは16年を経ているし、防衛大綱は鳩山政権時に改定され3年を経ているが、社民党との連立のため骨抜きにされ、民主党政権とともに瓦解していると見るべきかも知れない。

 特にここ3年、尖閣をめぐる中国の威丈高な理不尽な行動、北朝鮮の核実験・弾道弾発射など我が国周辺の国際情勢は急変した感があり、大綱・指針の見直しは当然の必要事項であろう。「大綱」については、7月に中間報告が発表されており、尖閣問題を踏まえ、機動展開機能・水陸両用機能(海兵隊的運用)の確保や、中国の空母をはじめとする軍事力増強、北朝鮮ミサイル開発を睨んだ警戒監視能力強化・弾道ミサイル対応等が挙げられており、尤もなことと考えている。また、集団的自衛権、集団的安全保障、自衛隊法改正(英米のいわゆるネガティブリスト方式への移行)等の法制的基盤の構築についても安保法制懇が5年振りに再開され、今まで、狭隘に過ぎた憲法解釈をはじめ、諸法制の改正・改善の動きが活性化されることも喜ばしい。

 今回筆者は、大綱・指針の主要事項ではなくその前提として考慮すべき趨勢について、考えているところを披露したい。まず第一は、中露の接近である。この現象は軍事技術面で著しい。中国の軍事技術は、飛躍的に高まっているものの、先端的な面では、まだロシアからの技術導入に依存しているところが大きいといえる。

 空母「遼寧」にしても中国製の構造部分・艤装部分は問題が大きく、外洋運用は無理なようで訓練艦に留まるようである。鳴り物入りで公表したステルス機も、ステルス機特有の大型機体を超音速巡航させるエンジンが無く、ロシアからの大出力エンジン導入に頼らざるを得ない状況である。

 中国への軍事技術のリリースについては、ロシアから導入したSU27戦闘機(J11A)の国産化(J11B)に関連し、知的財産権問題が発生、ロシアはその後の技術提供に極めて慎重に対応してきた。ところが、最近、中国の渇望していた大出力・推力偏向エンジン搭載のSU35新鋭戦闘機をはじめ、最新の地対空ミサイルシステムS400、最新大型輸送機IL476の中国への売却を矢継ぎ早に許可した旨報道されている。

 これらは、何れもロシア軍自体が配備を終えていない新装備であり、従来の新技術のリリースと明らかに状況が異なる。しかも、慎重な技術陣に対し、プーチン政権の強い決断との読みが大勢である。振り返れば世界の軍事情勢は、ソ連の崩壊以降、米国一強の軍事情勢が続いている。しかし、資源高の影響から経済が好転したロシアが、自国の軍備再建とともに、中国の軍備近代化意欲を利用し、「良い商売」で潤うとともに、一強時代のバランス変更を期しているものとして注目が必要である。もし、この傾向が持続されれば、中国の当面の膨張対象である我が国、台湾をはじめ東・南シナ海沿岸諸国、国境紛争の厳しいインドにとっては、軍備構想の見直しを迫られる事態となることが懸念される。さらには、原子力潜水艦、空母といった中国が開発に積極的な分野でロシアの技術提供が行われれば、さらに状況が厳しくなることを懸念すべきである。

 第二点は、国際共同開発の問題である。我が国と米国の間では30年にわたる、基礎的な分野からF2戦闘機のような実戦機まで各種の共同研究・共同開発の歴史がある。最近では、イージス艦搭載の主力対空ミサイル(SM3ブロックⅡ)の共同開発が行われており、注目を集めている。SM3は、北朝鮮弾道弾発射に伴い、米日韓のイージス艦が軌道海面に配置されたように、弾道弾対処能力を有しているが、さらに能力を向上させるものである。

 航空自衛隊に配備予定のステルス戦闘機F35においても、本機が米英などの国際共同開発機であることから、これに参入した形になっている。さらに、次期戦闘艦について三胴艦の共同開発、次期戦闘機の共同開発も噂されるに至っている。今後共同開発の流れは、ますます加速されると予想され、着実な対応が必要である。高度化に伴い高騰を続ける研究開発費の節減、各国が持つ特異な分野の相互活用といった一般的な利点は勿論、今回のSM3のような日米共同開発が、同盟の一層の緊密性を示すものとして、我が国の安全保障の後背力として、与える影響は大きい。

 さらには、F2共同開発で米国が評価した「全ファイバー構造」の技術が、民需に反映され、B787旅客機主翼の全生産を三菱重工が担当するといった産業上のメリットに反映されるケースも評価すべき実績である。これらのためには、まだまだ低い研究開発への資源投資を、粘り強く継続する必要があると強調したい。

 今回に限らず、大綱の策定は厳しい国家財政の状況から、喫緊の課題に対応するのが精一杯というのが実情であるが、安全保障という課題を考えるとき、変化に対応できる長期の見方が必要なことから、二点考えているところを披露した。法制懇に関連する課題については、また機会を見て論じたい。

(すぎやま・しげる)