新華社10大ニュースの意図
権力掌握途上の習政権
楽観できぬ中国の対日姿勢
中国では習近平政権の反腐敗闘争h4や権力集中が続く中で、昨秋の共産党中央委員会第4回総会(4中総会)と北京APECから次の段階に進もうとしている。
そのタイミングで実現した日中首脳会談が突破口となり、これから両国関係の改善に向けた交渉が本番を迎える。玉虫色の表現で先送りされた課題にどう取り組むのか、厳しさが予想される今後の対中交渉に当たり、わが国としてはまず内外情勢に関する中国の認識を知ることが重要になろう。
中国の新華社は昨年末に「中国内・外10大ニュース」を発表したが、国営通信は国家意図の代弁メデイアと見て、そこから中国の情勢認識を探ってみたい。
「新華社・2014年国内10大ニュース」は、発生時期順であるが、「①『改革の全面的深化元年』にそって戸籍制度など各分野の改革措置を公布②汚職腐敗幹部の摘発と処分は周永康ら元最高級幹部にまで及ぶ③雲南省で600余人死亡の大地震が発生したが、復旧は進む④全人代常務委員会が香港の普通選挙方式を決定し、香港政府により秩序が回復⑤文学芸術活動座談会で時代にふさわしい創作を奨励⑥4中総会が法治国家建設を採択⑦全軍政治活動会議で党に従う解放軍建設を明示⑧APEC北京会議を成功裏に開催⑨中国経済は高度成長から中成長時代に、量から質へ転換⑩南京大虐殺犠牲者の国家追悼式典を開催」を挙げている。
その最大の関心は、昨秋の⑥4中総会での法治による国家統治を決定したが、共産党の国内引き締めを「法治」というオブラートに包もうとする対策に過ぎない。関連して改革名目で進められる①戸籍制度の改革、⑨経済成長の量から質への転換なども執政の正当化策と言えよう。また、共産党統治の信頼獲得のために腐敗幹部の摘発と処分は高級軍人を含む大臣級28名に及んでいるが、さらに例外はないと②で党最高層の周永康前政治局常務委員にまで司直の手が伸びたことが強調されている。
また、国家統合に関わる問題では④香港で長期化する民主化要求運動を法治(全人代の決定)の名目で押さえ込み、求心力を強めるために⑩の歴史問題や⑤の文芸活動を掲げ、逆に多くの犠牲者を出した新疆ウイグル族やチベット族の反統合に関わる運動は取り上げていない。政権を支える軍については③で災害復旧活動を誇示し、⑦で党に従う軍という党軍関係を強調するなど共産党統治の擁護に徹している。
このように共産党統治がいろいろな形で挑戦を受け、対応に難渋する習政権の姿から国内の権力掌握はなお途上にあると見られる。
また、「国際10大ニュース」で新華社は「①中国外交の活発な展開で大国の責任果たす②アフリカのエボラ出血熱に中国からも支援③ウクライナで一部の州が独立を宣言してロシア連邦に加盟④マレーシア航空機の謎の失踪多発⑤韓国で『セウォル号』が沈没、船員と当局の対応に世論沸騰⑥『イスラム国』が独立宣言、人質殺害など世界平和に挑戦⑦米国の警官が黒人青年を射殺、抗議の騒乱を惹起(じゃっき)⑧中日両国が関係改善へ原則を確認、2年余ぶりに首脳会談⑨米国とキューバの国交正常化、米国失政は明白⑩陸と海のシルクロード構想に50余カ国が賛同で協議始まる」を挙げている。
国際ニュースで注目されるのは、中国の外交成果の誇示で、11月の北京APEC首脳会議を国内ニュースで国威発揚に利用しながら、①大国の責任や⑧2年半ぶりの日中首脳会談の成果を強調している。また⑩で中国の経済力を武器とした躍進を陸と海のシルクロード構想で強調している。大国関係は、ロシアでは③クリミヤ半島の併合を、「一部州の独立とロシアへの加盟」という表現で取り上げ、ロシアを応援しながらも米露関係の悪化を懸念している。また米国に対しては、いつも中国が民主・人権問題で攻勢を受けるのに反発して⑦で米国内に潜む人種差別を大きく取り上げるとともに⑨キューバとの国交断絶を米国の失政としているが、中間選挙の結果は取り上げていない。
国際的な安全保障が絡む⑥や②はわが国の10大ニュースと同じだが、中国は自国の貢献度をアピールしている。周辺国問題としては、④マレーシアの航空機事故や⑤韓国の船舶事故を取り上げているが、わが国で取り上げられている台湾の地方選での国民党大敗、北朝鮮がらみで習近平主席の訪韓や国連調査委による外国人拉致問題などについては無視している。
見てきたように「中国内・外10大ニュース」は政権の都合が反映されているが、同時に習政権の権力集中や汚職腐敗闘争の継続など内政上の苦悩も透けて見える。それでも昨秋の二つの大きな行事を乗りきって2022年までの長期政権の基盤を築いてきた習政権は米国に対等の大国関係を求めるなどの自信を覗(のぞ)かせている。
日中関係でも、既に日本を越えたとの中国の自己過信とわが国経済の長期低迷の相対関係は拡大し、また相互に抱く不信感も日本人90%、中国人87%から好転していない。首脳会談後の尖閣海域での中国の対応に柔軟化の兆しも見られず、今後の日中関係改善に楽観は許されない。
わが国としては当面、東シナ海での不測事態にヘッジしながら、戦略的には習政権が抱える難題に留意しながら、自信をもって本格的な長期戦への対応が必要になろう。
(かやはら・いくお)






