中国全人代の概要と教訓
なおも急増する国防費
安倍政権批判で求心力強化
中国では今春、第12期全国人民代表大会(全人代)第2回総会が北京で開催された。そこで審議された李克強総理の政府活動報告(政府報告)の概要を整理し、主要点や注目点をまとめたい。
まず、政府報告は2013年度の回顧として積極的な財政政策でGDPは前年比で7・7%成長であったと成果を誇示した。次の14年の活動方針では、GDP成長率を7・5%に、消費者物価上昇率を3・5%に抑制する、経済発展では上海自由貿易試験区の開設などが謳(うた)われた。そして習近平主席が掲げる「中国の夢」を「富国強兵、中華振興」に具現化して、政権への求心力の強化を図っている。
その上で、14年度の具体的な政府活動方針には次のような注目点がある。第一に、内政では喫緊の対応策として経済改革の深化、環境対策、汚職腐敗対策などが挙げられている。特に環境対策では、「エネルギー消費の抑制、原発建設などで微粒子状物資(PM2・5)に象徴される大気汚染への取り組み」が謳われている。また汚職腐敗対策は「蝿(はえ)も虎も」と大物幹部の虎退治が注目されるが、本欄で既報(3月16日付)したような課題につながっている。
第二に外交面では、自らを「責任大国」と位置づけて、「グローバルでホットな問題解決では建設的な役割を果たす」と強調している。しかし中国は、これまで南シナ海では島嶼(とうしょ)の領有問題で関係国との軋轢(あつれき)を強め、東シナ海では日中確執が尖閣諸島から防空識別圏設定にまで拡大しており、建設的な役割をどう果たすのかに疑念が抱かれてくる。
第三の国防分野については短い記述ながら、情報条件下の抑止力の強化と平時から戦闘に備えた実戦能力の向上が強調されている。特に「国防科学研究とハイテク武器装備の発展に力を入れる」とされ、「国防・軍隊改革を深化させ、軍事戦略指導を強化し、現代軍事力体系を整備する」と近代化目標が示されている。さらに治安維持などに備える強権力の近代化が強調され、その延長で武装警察部隊の増強や「国家経済建設への積極的な参加・支援」までが掲げられている。
第四に国家予算では、公表された中央政府予算で国防費8082億元(約13兆4000億円で日本の防衛費の約3倍)が最大の支出項目で、前年比で12・2%も増額されていた。次いで社会保障・雇用対策費に7154億元(前年比で9・8%増)、農林業・水利に6487億元(同8・6%)、教育費に4134億元(同9・1%)などが計上され、環境対策費は国防費の4分の1にすぎない2109億元(同7・1%)が計上されていた。
また、中国財政は、経済成長の翳(かげ)りが見られる中で、今年度も中央・地方政府併せて1兆3500億元(約22兆4175億円)の赤字国債が発行されている。このような財政事情にあって国防費急増が目立ち、国際的な警戒感が高まっているが、この問題は習主席の軍権掌握や今後の党軍関係などと関連して改めて稿を起こしたい。
今次の政府報告で看過できない重要点は、「第2次世界大戦勝利の成果と戦後の国際秩序を護持し続け、歴史の潮流の逆行を断じて許さない」と、名指しは避けたものの、安倍政権を批判したことである。それは昨年暮れの安倍総理の靖国参拝への反発であるが、習政権の求心力強化に上手く利用してもいる。
ちなみに中国の歴史問題の認識は、かつての日中戦争は日本の軍国主義者による対中侵略であったと規定している。それは日中国交正常化時に周恩来総理が、侵略したのは一握りの軍国主義者の主導で、日本国民もまた被害者であるとの論理で、戦争賠償の請求権を放棄したのが起点となっている。そして今日ではA級戦犯が軍国主義者の象徴とされ、合祀(ごうし)される靖国神社への参拝は軍国主義復活と見て反発している。そこには安倍総理が言う「祖国のために戦死した先人に尊崇の念を顕(あらわ)す」とはおよそ違った歴史への逆行と解釈されている。さらにこれを国際的には「日本が戦後の国際秩序に挑戦している」と問題をすり替えて反日運動の根拠としている。
警戒すべきは、中国が日中戦争も含めた第2次世界大戦を反ファシズム戦争と定め、米露など連合国と中国はその戦勝国であり、ポツダム宣言を受諾した日本は敗戦国として東京裁判なども含めて戦後の国際秩序に従うべきである、との見方に立っていることである。そして靖国参拝を戦後秩序に対する挑戦にすり替えて対日批判を戦勝国に呼びかけ、国際問題化して日本の孤立化を図っている。
その延長で米国からは「失望した」という反応を引き出し、また2月のソチオリンピック開会式に参列した習主席はプーチン大統領と首脳会談で、来年に70周年を迎える反ファシズム戦勝利を記念して祝賀行事の共同開催を呼びかけ、同意を得ている。これらからも中国の宣伝戦につけ入る隙を与えないよう用心深く対応する必要があろう。
長期政権と見られる習体制であるが、少数民族の反乱や汚職腐敗など国内問題に難渋している。その分だけ習政権の対外姿勢は強硬になり、日中間の尖閣問題などの長期化は避けられない。わが国は本腰を入れて中国との長期持久戦に備える必要があることを、今次全人代は教唆している。
(かやはら・いくお)