中国の「極超音速ミサイル」、2020年代前半に配備も 米国際評価戦略センター リチャード・フィッシャー氏
MD網を突破、深刻な脅威
【ワシントン早川俊行】中国の軍事動向に詳しい米シンクタンク、国際評価戦略センターのリチャード・フィッシャー上級研究員はこのほど、世界日報の取材に応じ、中国が開発を進める「極超音速ミサイル」について、2020年代前半までに初期型を配備する可能性があるとの見通しを明らかにした。「極超音速兵器は現在のミサイル防衛(MD)で迎撃するのは極めて困難」であり、中国が米国より先に配備すれば、「米中のパワーバランスに否定的影響をもたらす」と強い懸念を表明した。
極超音速兵器は、マッハ1・3~5・0の超音速を上回る速度で飛行し、標的を精密誘導でピンポイント攻撃する兵器。革命的な軍事技術であることから、米国やロシア、中国などが開発に乗り出している。
中国は今年1月、極超音速滑空飛翔体「WU14」の飛行実験を実施。米メディアによると、WU14は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載して打ち上げた後、分離して最大マッハ10の速度で滑空し、標的へ精密誘導する仕組みとされる。
中国の実験は米国内に大きな衝撃を与えており、有力議員からは「中国は米国の先を行っているようだ」(バック・マケオン下院軍事委員長)との反応まで出ている。
フィッシャー氏は「中国の全体的な極超音速兵器開発を測定するのは困難だが、学術誌などを見る限り、相当な取り組みをしているのは確かだ」と指摘。「米国の先を行っているかどうかは私には言えないが、中国の開発は重点的で、十分な資金が投じられているようだ」と語った。
米国も極超音速兵器の開発を進めているが、フィッシャー氏は「まだ研究・開発段階であり、兵器化計画を始められるほど十分な進展を遂げているようには見えない」と分析。「極超音速兵器の分野では、米国は中国と開発競争をしているというのが厳しい現実だ」と述べ、次世代兵器の開発をめぐり、米国の技術的優位は急速に失われているとの認識を示した。
フィッシャー氏は、航行中の空母など動いている標的を攻撃できる高度な極超音速兵器の開発にはかなりの時間を要するものの、単純な誘導機能の初期型であれば、中国は2020年代前半に配備する可能性があると指摘。「米国も初期型の極超音速兵器を迅速に開発しなければ、中国だけがこれを保有する事態も起こり得る」と警告した。
フィッシャー氏によると、極超音速兵器は弾道ミサイルと違い、平面弾道での飛行が可能なことから、現在のMDシステムでは迎撃が難しく、「米国の地上・水上戦力に深刻な脅威をもたらす」という。
同氏は、対抗措置としてレーザーなどエネルギー兵器の必要性を主張する一方で、「最善の対抗手段は、戦略攻撃システムを潜水艦など水中のプラットフォームに移すことだ」と強調。オバマ政権が米海軍の核巡航ミサイル「トマホーク」の退役を決定したことについて、「信じられない誤りだ。トマホークは極超音速兵器から唯一安全な戦域核抑止力だった」と批判した。