台湾情勢 日本は関係強化の法制定を
米国が中国の台湾侵攻に警戒を強めている。米国の同盟国で台湾と地理的に近い日本は、米台との連携を強化して有事に備える必要がある。
米軍司令官「有事近い」
中国の習近平国家主席は2019年1月、台湾政策を武力解放から平和統一に転換した「台湾同胞に告げる書」の発表40周年を記念して演説し、「武力使用を放棄することは承諾できない」と明言した。
習氏は「一国二制度」による台湾統一を掲げている。だが、香港では1984年の英中共同声明で保障された一国二制度が骨抜きにされている。昨年6月には中国による香港統制を強化する国家安全維持法が、先月には香港の民主派を排除する選挙制度変更が施行された。台湾の蔡英文総統が一国二制度を断固拒否する考えを示しているのは当然である。
中国軍機が台湾の防空識別圏への侵入を繰り返すなど、中国は軍事的圧力を強めている。米インド太平洋軍の次期司令官に指名されたアキリーノ太平洋艦隊司令官(海軍大将)は、上院軍事委員会の公聴会で台湾有事の時期について「大方の予想よりずっと近い」と警告した。
近く退任するデービッドソン・インド太平洋軍司令官も、中国が6年以内に台湾に武力を行使する危険性が高まっていると訴えている。こうした発言の背景には、中国の軍拡が予想を上回るペースで進んでいることがある。
米国は1979年1月の米中国交正常化に伴う台湾との断交を受け、同年4月に台湾関係法を制定。台湾に防衛のための兵器を供給することや、台湾の安全への脅威に米国が対抗措置を取ることが定められている。
台湾と外交関係を結ぶパラオのウィップス大統領が訪台した際、ヘネシーナイランド駐パラオ米大使が同行するなど、バイデン米政権は台湾の外交関係国を次々に奪う中国に対抗しようと、台湾を支援する意思を鮮明にしている。日本も台湾との連携を強化すべきだ。
台湾の在日大使館に当たる台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表は時事通信のインタビューで、台湾関係法と同様の法的措置を「日本も制定してほしい」と訴えた。このような声に応える必要がある。
自民党の保守系有志議員でつくる「保守団結の会」は先月、台湾との関係深化を目的とした「日台交流基本法」制定を訴える決議をまとめた。こうした動きが台湾との関係強化につながることを期待したい。
集団的自衛権の行使を
一方、菅義偉首相は出演したテレビ番組で、台湾有事が安全保障関連法で規定する「存立危機事態」に該当するか問われ、「仮定のことに私の立場で今答えることは控えたい」と明言を避けた。しかしシーレーン(海上交通路)防衛で警戒中の米艦船が攻撃されれば、日本の存立が脅かされる事態に陥ることは明らかだ。
存立危機事態は集団的自衛権によって自衛隊が武力行使できる3要件の一つである。首相は台湾有事の際の集団的自衛権行使を表明し、米台との共同訓練の実施に動くべきだ。