新疆は中国の一大起爆地帯


金子 民雄歴史家 金子 民雄

半強制結婚の同化政策

暴動要因せっせと作る当局

 昨年の10月、新疆ウィグル自治区のウルムチで、中央アジアの学術会議があるので参加して欲しいと、招待状がとどいた。ところが、体調が思わしくなく、とうとう出かけられなかった。とくに最近の中国新疆をめぐる動静が目まぐるしく、このことも知りたいと思っていたのだが、とうとう実現しなかった。

 ところが、この会議の終わる10月28日に、新疆ではなく北京の天安門広場に車が突入し、この自爆事故で5人が死亡する事件が起こった。容疑者としてウィグル族の5人が拘束された。ウィグル地域では暴動事件が頻発していたが、まさか首都北京で起きるとはだれにも予測がつかなかったろう。

 こうした事件が中国政府を震撼させるほどの影響力はないだろうが、中国政府もとうとうウィグル族の反乱を制御できないことを、内外に知らせたはずだった。辺境の不満分子の一部が反抗したところで、たかが知れると考えるのが、世間一般の常識であろう。ところが、歴史的背景から見て、新疆こそ宗教と民族問題の絡んだ一大起爆地帯であることを、中国人はすっかり忘れているようだ。まして日本などでは、夢のシルクロードなどと想像する人が多いから、一層理解がむずかしい。

 たしか数年前のことだったと思うが、東京で開かれた講演会のあとで、10名ほどの若い女性たちから会いたいと言われたことがある。自分たちはウィグルからの留学生で、日本の大学を卒業するのだが、故郷に帰りたくないので、なんとか日本に滞在したいのだという。しかし、彼女たちが説明するには、これは日本政府からの許可が得られないのでむずかしいのだという。

 こういった相談なら前にもあったので、なら一度戻ってまた来たらどうか。そして米国へ行く方法を考えては、その方法は成功するよとすすめた。ただ彼女たちが深刻に説明するには、帰国すると、漢族の男と半強制的に結婚させられてしまうので、戻るに戻れないという。彼女たちはみな真剣で、しかも若さと美貌にあふれた女性たちばかりなので、話が一層深刻だった。

 しばらくして彼女たちに会うと、カナダに移住できたという。大変でしたねというと、なに私たちは元々が遊牧民なので驚きません、ということだった。

 米国政府は、2001年9・11のニューヨークのテロ事件で、これまでの方針を変え、中国との間で対テロ協力と引き換えに、ウィグル族の独立運動をテロ組織と認定した。そこで一般のウィグル族も「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)の同調者とみなし、よく分からぬまま民族独立派のテロ集団の一員としてしまった。ウィグルは米国とはなんの利害関係もない。ここに米国の歴史認識の大きな欠陥がある。

 元々がトルコ系民族であるウィグル人たちは、希望としては中国政府から独立し、民族自立の独立国家を作りたい。ところが1991年、ソ連が崩壊し、同じトルコ系民族である旧ソビエト中央アジアの五つの国が、みな独立国家になれた。ウィグル(新疆)だけが中国領に入っていたため、独立できなかった。ウィグル族にとっては不満が大きいが、中国政府はこの要求に応ずる気配はない。

 むしろ十数年前までには見るも稀であった漢族を、新疆に大量流入、移住させる手法をとり、この人海戦術が新疆を呑み込み始めている。早晩、新疆はチベットや内モンゴル、旧満州同様の運命をたどるにちがいない。

 狭い島国に住む日本人には、とくに民族・宗教問題についてはほとんどの人が無知に近い。人はみな自由平等といっても、そのバランスがひとたび崩れたら収拾がつかず、たちまち少数派、弱者は抹殺されてしまう。私はミャンマーの辺境地帯で、こういった例を厭というほど体験した。ほとんど同じに見える人種であっても、互いに同和することなどあり得ない。とくに宗教が異なると生き残れない。弱いものは消されるのだ。

 新疆には、同じトルコ系といいながら、民族間の混血種が存在する。そして宗教がイスラム教(回教)の場合、彼らは回回族(回族)と呼ばれた。見かけはまったく漢族と変わりはないのだが、体内を流れる血液に別種が入っているというのだ。それがこの一、二代前のことなら分かるが、何十代も前のもそうなのだという。

 とくに中国の中央部に当たる甘粛、陝西、青海、寧海地域に住むトルコ系イスラム教徒を東干(トンガン)という。彼らの先代は何世代も前、西方のイスラム諸国から中国のこの中原地区に移住した者たちで、言葉は中国語を話すが宗教はイスラム教である。私は彼らと随分会ったが、ほとんど漢族と区別がつかない。

 しかし、こういった異種と呼ばれた民族は、過去恐ろしい存在だった。新疆で民族の動乱がひとたび起こると、彼らは救援に駆けつけ相手を皆殺しにした。現在の中国ではいま、こうした恐るべき民族の暴動の要因となる“爆弾”をせっせと作っている。歴史的無知はさらに恐ろしい。

(かねこ・たみお)