与野党せめぎ合う台北市長選

柯文哲氏が「台風の目」

 台湾では、年末の6大都市首長選挙に向け、与野党が候補者の最終選定に腐心する時期を迎えている。6大都市の首長ポストを幾つ獲得できるかが2016年の次期総統選の行方を大きく左右するため、特に与野党伯仲が予想される台北市長選では与党・国民党が死守するのか、「台風の目」となっている無所属の柯文哲氏が最大野党・民進党と野党連合を組めるのかが焦点となっている。
(香港・深川耕治)

総統選の前哨戦 野党統一候補擁立が鍵

600 11月の投開票が予想される6大都市首長選は、直轄市である台北、新北、桃園、台中、台南、高雄の台湾6都市で同日投開票される大型選挙(各市議選も含む)。同日行われる直轄市以外の県市長選も合わせて台湾では「七合一選挙」と表される。

 前回、10年11月に行われた5大都市(台北、新北、台中、台南、高雄)市長選では国民党3(台北、新北、台中)、民進党2(台南、高雄)の現状維持だったが、得票率で最大野党・民進党が49・9%と与党・国民党を5・3ポイント、得票数で40万票余り上回り、野党にやや勢いがある。

 特に注目されるのが台北市長選。

 外省人(戦後、中国大陸から移り住んだ人々)が多く、外省人やその2世、3世の比率が高く、国民党の選挙地盤が強固なため、首長選や立法委員(国会議員)選では台湾北部は国民党(シンボルカラーは藍色)、台湾南部は民進党(シンボルカラーは緑色)の支持基盤が強く、「北藍南緑」の構図は変わらない。

 台北市の現職郝龍斌(かくりゅうひん)市長(国民党)は今年末で2期目を終了し、規定では3選できないため、与党・国民党は新たな候補者擁立を準備中だ。

 国民党で出馬に名乗りを上げているのは丁守中立法委員と蔡正元立法委員、楊實秋台北市議会議員、秦慧珠台北市議会議員。大本命である連戦名誉主席の長男・連勝文氏はまだ正式に出馬表明していないが、出馬は秒読み段階とみられる。

 台湾紙「聯合報」が昨年12月に行った最新世論調査結果によると、国民党内での台北市長候補者の支持率では連勝文氏が36・9%でトップ。丁守中氏(16・5%)、蔡正元氏(6・0%)、秦慧珠氏(3・1%)の順で連勝文氏の支持率が圧倒的に高く、出馬待望論が根強い。2000年の総統選で敗北した父・連戦氏の無念を晴らしたいとの思いもあり、2月に予定される党内予備選の前までには表明するとみられている。

 台湾預託証券(TDR)不正購入疑惑に関与しているとの一部報道で出馬辞退圧力がかかっているが、国民党内の権力闘争に翻弄されないよう、ぎりぎりまで出馬表明をしていない。連勝文氏の側近・徐弘庭氏は「柯文哲氏がライバルになるかどうか、野党連合の動きを注視している」との冷静な態度だ。

 一方、最大野党・民進党は5月、党主席選を控え、蘇貞昌党主席が再選、続投するかどうかが大きな分岐点になる。再起を目指す蔡英文前党主席との一騎打ちになる可能性もあり、16年の総統選に向け、総統候補選びの大きな目安になる時期を迎える。

 台北市長選には民進党候補として呂秀蓮元副総統や弁護士の顧立雄氏が出馬表明しているが、民進党内だけでの支持率は呂氏が11%、顧氏8%で呂元副総統が優勢だが、国民党候補に勝てるだけの潜在的な得票基盤が見いだせない。

 そこで、俄然(がぜん)、台北市長選で注目を浴び始めているのは、無所属の政治とは無縁に見える外科医の柯文哲台湾大学医学部教授だ。

 祖父が1947年に台北で発生した2・28事件で国民党の軍隊から拘束、殴打されて病床3年後に他界。父親は今なお政界進出に猛反対しているが、国民党、民進党の二大政党の限界に嫌気が差した無党派層の支持を得て人気急上昇しており、本人も地元メディアに積極的に登場し、出馬意志は固い。

 台湾紙「聯合報」の12月に行った最新世論調査結果によると、台北市長選の候補者支持率は連勝文氏が38%、無所属の柯文哲氏が35%、民進党の呂秀蓮元副総統が11%という順だ(表参照)。柯文哲氏は国民党に批判的だが、民進党所属ではなく、あくまで無所属を通すスタンス。民進党の候補者が単独では当選圏内に入ることが困難となれば、野党連合の統一候補として柯文哲氏を擁立していく動きも見える。

 現状では野党連合として柯文哲氏を統一候補にして戦えば、連勝文氏を上回る支持率となることは、民進党にとっては“国民党の牙城”である台北市トップを奪還する上で戦略的には勝機を得て非常に魅力があるように映っている。今後の対中関係を含め、柯氏の動向次第では16年の総統選に向け、無党派層の新たな潮流として今後の台湾政局の台風の目となりそうだ。