アフリカ発展に資する支援を
人材の育成と技術移転
日本は額より高い質で競え
相当前のことになるが、第6回「アフリカ開発会議」(TICAD)がケニアの首都ナイロビで昨年8月27日から2日間開催された。人口12億を擁するアフリカは、アジアに続く新興市場、「最後のフロンティア」とも称され、近年国際社会において「希望」と「機会」の大陸として多くの注目を集めてきている。そもそもTICADとは、日本政府主導でアフリカの開発や支援について協議する国際会議であって、1993年から2013年までは5年に1度日本で開かれてきた。
この会議において採択された「ナイロビ宣言」では、まず、世界におけるアフリカが重要なプレーヤーたる役割を担うべきことをうたい、三つの新たな課題として、経済の多角化、保健システムの強化、社会安定化を掲げ、詳細に論じている。すなわち、世界的な一次産品部門への依存を軽減させる必要があり、同時にテロと暴力的日和見主義に対抗する上での社会安定化が重要だ。次いでパンデミック危機等を防ぐために保健システムを強化することが挙げられる。
そもそもアフリカにはそれぞれ問題を抱える54カ国がある。もちろんそれは一様ではないが、そのポテンシャリティーは国際社会にとって魅力的で、将来においてアフリカが世界のうちで成長の中心になるとさえ言われている。同時に近年、中国、インド、米国などがTICADと同様の諸会議を相次いで設けているようだ。特にアフリカと中国のつながりが急増し、国際通貨基金(IMF)の集計では、中国関連の貿易総額は1364億ドルと日本の4倍を超した由。わが国としても、今後の問題は人材育成、環境保護等に加え、ビジネス倫理に配慮したきめ細かい支援を通じて、存在感を高めることが重要だ。
上掲の諸問題の根底には、「国際法の原則に基づく海洋秩序の重要性」がある。皆が知るところだが、東シナ海の尖閣諸島等では、他国の公船、漁船による領海侵犯が繰り返されており、さらに南シナ海では岩礁を埋め立てて軍事化し、仲裁裁判所における全面敗訴裁定をも無視する某国が! わが国としても多くの国際会議で、かかる力ずくの不当な海洋進出に対する反対を訴えるべきだろう。
この会議において、安倍総理は日本の新戦略として「自由かつ開放されたインド太平洋戦略」に言及し、アジアとアフリカをつなぐインド洋と太平洋につき「平和、かつルールの支配する海」とし、「力や威圧とは無縁、かつ自由と法の支配、市場経済重視の海に」と強調した。海洋の平和は、アジア、アフリカの連携を強め、わが国が培った開発に関する識見をアフリカにも伝えることにより質の高い援助の実現に資するであろう。
ところで中国だが、その対アフリカ援助金額は他を圧倒している。しかしながら、人権、環境への配慮に欠けたまま自国企業の市場拡大、資源確保が優先され、労働力すら本国から持ち込まれている現状で批判にさらされているのが現実である。この際、日本に期待されるのは被援助国の力を高める支援で、人材育成や技術移転であろう。その支援額はここ3年間で3兆円の投資、若者5万人への職業訓練を含む1000万の人材育成に取り組むとの方針を表明している。ケニアのケニヤッタ大統領は、「日本はアフリカ発展の力になり続けてくれる」と称賛したが、かかるアフリカ諸国の信頼を今後いかようにつなぎ止めていけるか! 中国は額にして日本の倍の援助を表明しているが、同じ環境での競争には限界があると言わざるを得ない。
微妙な話なのだが、そもそもTICADの発足には、筆者の個人的貢献および外務省の努力には相当のものがあった。筆者が南アフリカに勤務していた際、既にザンビアで「特命全権大使」を経験していたにもかかわらず、その身分は在プレトリア総領事でしかなかったが、その理由は南アフリカ共和国が「アパルトヘイト」という一種の「人種差別制度」を採っており、他のアフリカ諸国(ほとんどがいわゆる「黒人主導」の国家だった)から多少反感を持って見られていると日本政府が考えていたようなのだ。
ただし、日本以外の欧米先進国は南アフリカと正式な国交を有しており、「大・公使」を派遣していたのだ。比較的穏健だった日本政府は、日本が「白人国」南アフリカと国交を樹立し、筆者を「総領事」から「大使」に格上げしたら、他のアフリカ諸国から「総スカン」を食らうのではないかと恐れていたのだ。事実は違う。マンデラ氏自身が大使館への格上げを熱望していたのだ。
その後の動きを述べると、結局日本は南アとの国交を樹立し、筆者も駐南ア特命全権大使を拝命して外務省を引退するまで勤めた。結果として、筆者のアフリカ勤務は、ケニア、ザンビアと南アを含むと計9年弱ということになった。他のアフリカ諸国大使らからは、ユーモアを込めて「ミスター・アフリカ・オブ・ジャパン」と呼ばれていた。
今回、アフリカ側から出ていたTICADのアフリカ開催の要望に応えた。TICADは、今回から3年ごとに日本とアフリカで相互開催する予定になっている。事実、今後もアフリカとの接点を増大する取り組みが求められているのだ。
(おおた・まさとし)