ミャンマー横断のパイプライン 中国、来月にも完成へ
新グレートゲーム・中国南進の海
中国南進の海(1)
上海協力機構を軸に中央アジアの取り込みを図る中国は、インド洋でも米印海軍を相手に虎視眈々と戦略的動きを加速させている。中央アジアは19世紀にロシアと英国がグレートゲームを演じた場だが、21世紀においても中露米印が絡んだ新グレートゲームが展開されている。さらに中央アジアだけでなくインド洋や他の海洋でも、中国は囲碁に似た布石を打ち始めている。
(池永達夫、写真も)
エネルギーと安保で一石二鳥
15年ぶりのミャンマー最大の都市ヤンゴンは目を見張るほどに変わっていた。市内は車の量が半端ではなく、交通ラッシュで身動きが取れないほどだ。
当初、ヤンゴン空港からベンガル湾に面したミャンマー西部のラカイン州チャウピューまで一気に飛ぼうと予定していた。チャウピューは、中国がパイプラインを横断させ、雲南省昆明と結ぼうとしているベンガル湾側の基地となる場所だ。
だが現在、ミャンマー人以外、外国人はチャウピュー行き航空チケットを買うことはできない。
目指すチャウピューは外国人立ち入り禁止地区ではないが、昨年、イスラム系のロヒンギャ住民と仏教徒との間で抗争事件があり、そのとばっちりを受けないよう政府が外国人の旅行を規制しているのだ。
仕方なく一晩かけてタウンゴッまでバスで行き、そこから出ている高速船に乗り込もうとした。だが午前6時にもかかわらず、早朝から埠頭で睨みを利かせている公安警察にはじかれ、高速船のチケットは買うことができない。
それでも、幸運は車に乗ってやってきた。白タクが寄ってきて、チャウピューまで送るというのだ。渡りに船ならぬ、渡りに白タクとばかり飛び乗った。
チャウピューは島だとばかり思っていたが、何本か川は渡るもののユーラシア大陸に付属していた。
距離にして150キロ程度にすぎないが、悪路のため土煙を上げての走行時間は8時間かかる。着いた時、髪の毛は真っ白に変色していた。その間、至る所で橋の建設と道路の拡張工事を目の当たりにする。
中国にとって本命の、パイプライン建設と港湾建設に従事する中国人ワーカーの働きぶりに対する現地の評判は悪い。
「中国のアフリカ進出と同様、現地調達するのは食料品と売春婦だけ」(チャウピュー商店主)というほど、ワーカーと資材を中国から運び込み、現地に金を落とさない中国型進出ぶりに、地元民の反発と失望は濃い。
沖に出ると中国が国家を挙げて取り組んでいる港湾建設と石油貯蔵庫が目に入る。
パイプラインは原油用と天然ガス用の2本で、チャウピューから中国雲南省の昆明までを結ぶ。工事を担当するのは中国最大のエネルギー会社・中国石油天然気集団(CNPC)だ。同社がパイプラインの設計から建設、運営、拡張まで責任を持つ。
工事は最後の追い込みに入っている。中国国営通信新華社は年初、「5月末に完成する見通しで、6月初旬にも運転を開始する」と報じた。ただ現場で見る限り、大型石油タンカーの埠頭建設が進んでおらず、ソフトオープンとなる見込みだ。
同パイプラインで年間2200万トンの原油と同120億立方メートルの天然ガスを運ぶ。中国の年間原油輸入量の約1割、天然ガスにおいては4分の1に相当する量だ。このパイプラインは、沿岸部から経済を牽引してきた中国の発展形態を大きく変える可能性を秘めている。
同パイプラインと道路建設で、中国は雲南省からベンガル湾に抜ける南下回廊を手に入れることになる。意味するものはエネルギーの確保と安全保障の一石二鳥のメリットだ。
現在、中国が輸入する原油は7割以上がマラッカ海峡を経由している。同海峡の有事は、中国にとっては悪夢以外の何ものでもない。海賊によって航行を妨害されるリスクも存在する。その意味でも、同海峡に依存しないミャンマーを通じたパイプライン敷設は、エネルギー補給路のバイパスを意味し、CNPCよりむしろ中国軍が渇望してきたものでもある。