過去から学ぶ中国の拡張主義 桐蔭横浜大学法学部教授ペマ・ギャルポ氏

尖閣問題に臨む日本の覚悟  力の信奉国家・中国には力で対処を

 チベット出身で中国問題に詳しいペマ・ギャルポ桐蔭横浜大学法学部教授が昨年12月19日、世界日報の読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)で、「過去から学ぶ中国の拡張主義~尖閣問題に臨む日本の覚悟」と題して講演した。ペマ教授は、「中国という国は力しか信用しない。相手が譲歩したら弱いとみる」と述べ、日本政府に毅然とした対応を貫くことを求めた。講演内容は以下の通り。


譲歩すればチベットの運命/究極目的は覇権、領土拡張

中国の暴走を許すな/日本に2千人の特務工作員

300 運命的にこの中華人民共和国といわれている国と大きな関係ができた。私が生まれた時、故郷に中国人はいなかった。ある日突然、中華人民共和国の、いわゆる人民解放軍が、チベットを西洋の帝国主義から解放するという名目で入ってきた。

 古い新聞を見ると、中国は最初、チベットを自分のものだとは言っていなかった。中国の大家族に迎えたい、西洋帝国主義からチベットを解放したいと言うが、残念ながら、西洋帝国主義といっても当時、西洋人はチベット全土でたった7名程度しかいなかった。

 最近、似たような言葉を日本に対しても使い始めている。今年、沖縄で入手した資料によると、琉球民族は古来よりわが中華民族の一員であって、琉球の独立を支持するのは、中華人民共和国の責任であると言っている。かつてチベットに言ったのと同じ言葉のような気がする。

 中国の魔の手は日本に伸びている。日本の領海、領空を侵している。しかし、日本の社会に影響ある人々は、そんな小さなことでけんかするよりも、共同で開発すればいいではないかと悠長なことを言っている。しかし、中国に対し譲歩すればどうなるかということは、チベットを見ればよく分かる。

 中華人民共和国という国が本当に5000年の歴史を持つのか。中国は本当に広いのか。どちらも、幻想であって現実ではないと思う。

 今の中国はわずかこの50~60年の間にできた国であって、決して4000年、5000年の中国ではない。まして、中華民族などというものは存在しない。民族の定義は、同じ歴史的体験を持ち、同じ言葉を話し、あるいは場合によっては同じ宗教を信仰し、人種的にも同じDNAを持つ人たちだ。私たちと中国人のどこに同じものがあるだろうか。言葉は違う。宗教は、清朝や元の時代にチベット仏教を中国の上層部の人たちが取り入れ、中国の国教にもなったことがある。民族の定義そのものが中華民族には当てはまらない。江沢民、胡錦濤、習近平はこの中華民族という言葉を盛んに使う。しかし、あれは空想である。現実的に中華民族は存在しない。その幻想を抱き始めたのは孫文。アメリカ合衆国に倣って国民国家をつくろうとした。孫文はそれを中華民国と名付け、そこに集まった人たちを中華民族と称したにすぎない。

 現在の中華人民共和国の940万平方メートルの中でわずか37%のみが彼らの本来の領土。残りの63%は、チベット、ウイグル、モンゴル、満州など。中華人民共和国成立以来、次から次に周辺の弱い国々を侵略し始めた。中華人民共和国の誕生に最も貢献したのは、当時のソビエト連邦だった。そのソ連とも戦争をした。戦争の理由は領土問題だった。共産主義という同一性を持っていたベトナムとも戦争した。その理由は領土拡張だった。

 英国の植民地から独立したインドとも戦争した。やはり原因は領土だった。

 日本は国連に過剰に期待する傾向がある。国連は即時撤退とチベットの人権および主権を尊重するよう求めた。国際司法委員会(ICU)は2度にわたって、チベットに関する調査を行った。その結果、チベットで計画的、組織的虐殺があったと中国を告発した。チベットが事実上の独立国家であったことも認めた。しかし、これらの正式な国際機関における結論は中国にとって何の意味もなかった。1959年から77年の間に120万人のチベット人が犠牲になった。それに対して世界の政府も国際法も何の役にも立っていない。

 いつの間にか世界は、チベットについても東トルキスタンについても、南モンゴルについても、あたかも何百年、何千年も前から中国の一部であったかのような錯覚を起こし、中国4000年の歴史だけが勝手に歩き始めた。

 今のチベットは占領下の国家だ。1951年に中国と条約を結んだ。その条約には、中国政府はそれまでのチベットを認める、手を加えない、チベット独特の文化も尊重するなどと書いてあった。

 しかし、1959年にダライ・ラマ法王がインドに亡命して、一番最初にやったことはその条約を無効にすることだった。条約が無効になったのだから、中国軍がチベットにいることは占領以外の何ものでもない。チベット人の意思ではない。そして彼らはチベットとの条約を破った。後にアメリカの議会において、チベットは占領下の国家であるという決議がなされた。大統領は署名しなかったが、このような決議があったという事実は変わらないと思う。

 したがって今日の中華人民共和国というこの広い土地というのは、1949年以後に武力を背景にして占領されたものであって、そこに住んでいる人たちが自発的に彼らが言う「大家族」の一員になったわけではない。

 いま中国はいろいろな国に対して挑発的になっている。

 中国という国は力しか信じていない。だから、中国に対しては力を使うしかない。中国人は、相手が譲歩することは相手が弱いと解釈する。

 日本の大使館に勤めて、オーストラリアに亡命した中国人の元外交官によると、2000人の中国の特務機関員が日本に潜伏しているという。外国人参政権は本当はいいことだ。しかし、中国大使館は中国人の投票をコントロールできる。命令に背いたら家族親戚がどういう目に遭うか考えると、自分の自由意思で一票を投じることはできない。そういう状況を把握した上で外国人参政権を考えるべきだ。

 日本には500以上の中国との姉妹都市がある。驚くほどに市長の秘書室や企画室に中国から来た人が研修に入っている。日本では道路計画など多くのことが秘密ではないが、相手が敵であれば知りたい情報だ。相手は目的を持っている。情報は目的があって初めて価値がある。

 中国は50年、100年先のことを考えて行動する。究極の目的は覇権、領土拡張だ。どうやって今の経済発展を継続していくかというと資源の獲得だ。そして中国に対していいかげんにしろと誰かが言わなければならない。が、今の世界ではアメリカも含めてそれができない。しかし、日本も含めていろいろ牽制し、領土拡張を防ぐことはできると思う。インドなど南アジアの人たちと連携するなどだ。

 今度の安倍政権がぜひともやるべきは、領土領海領空を侵されたら自衛隊が先に撃っていいと閣議決定することだ。そうすることが、むしろ武力衝突を防ぐことになる。中国の暴走をこれ以上許しアジアの平和を乱してはならない。日本自身も迷走するのはもうやめたほうがいい。