中国海南島三亜が南シナ海睨む空母基地へ
新グレートゲーム・中国南進の海
中国南進の海(6)
同じ緯度にleftし常夏であることから「中国のハワイ」と呼ばれる海南島・三亜。24年ぶりに訪れて驚愕した。
当時は珊瑚がゴロゴロ転がっている白い砂浜にマリンブルーの海こそ素晴らしかったが、ホテルはバンガロー風のものだった。
それがザリッツカールトンやマリオット、シェラトンといった五つ星ホテルが目白押しだ。極めつけはドバイの超豪華ホテル「バージュ・アル・アラブ」を模してつくられた白い帆船型の「フェニックスアイランド」が、自称七つ星ホテルとして三亜湾に浮かぶ。
海南島を訪れる観光客は年間2000万人。とりわけ三亜は中国中から富裕層が押し寄せるため、通常のツインタイプの部屋でも春節(旧正月)だと1泊1万~2万元(約15万~30万円)する。7月、8月のオフシーズンですら、これらのホテルは3000元(約4万5000円)以上の部屋が満席で予約できないほどだ。
町を歩くとアロハシャツにビーチサンダルが目立ち、南国のリゾート気分を満喫できる。
川岸にはクルーザーやヨットハーバーがひしめき、遊園地や水族館、ゴルフ場などあらゆる行楽施設が用意されている。
三亜の中でも、五つ星ホテルのみをビーチ沿いにずらり並べた亜龍湾には、バナナボートやサーフィン、スキューバダイビングとマリンスポーツは何でもそろっている。
だが、ジェットスキーがしぶきをあげて走り去るその沖には、春霞の中にミサイル駆逐艦「広州」が遊弋していた。ステルス性に配慮された船体と、同時に8個の目標と交戦できるロシア製艦対空ミサイルが特徴だ。基地と艦隊を守る本格的防空艦だ。
射程50キロの対空ミサイルを持つ「広州」がにらみを利かせているのは、亜龍湾とその隣にある楡林湾だ。楡林湾には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した最新鋭の「晋」級原子力潜水艦が配備されている。山に海水を引き込んだトンネルが3カ所、原潜を格納する大規模な世界最大級の地下原潜基地だ。偵察衛星から捕捉されないように、潜航したまま山の岩盤の下に造られた原潜基地に帰港できる。
24年前、三亜で意外だったのはタクシー運転手が門番に一声かけると潜水艦基地にすっと入れたことだ。一隻しかなかった黒のディーゼル型潜水艦の上には、ロープを張ってランニングシャツとパンツが数枚、風に舞っていた。南国らしいおおらかさといえば聞こえはいいが、緩みきった規律が見て取れた。
その三亜の海軍基地が豹変している。
「広州」がにらみを利かすもう一つの亜龍湾には、850メートルの大型埠頭が二つ造られていた。
現在、上海長興島の江南造船所第3ドックで建造中の国産一番艦空母(排水量4万トン)が、早ければ来年にも完成する。続けて2021年には、排水量6万トン級の原子力空母の就航が予定されている。いずれも南シナ海を守備範囲とする南海艦隊に配属され、亜龍湾基地を母港とする見込みだ。空母4隻が楽に寄港できる二つの大型埠頭は、そのためのものと考えられる。
これらの大海軍基地を守っているのが「広州」だが、その艦ナンバーは168。「一路発(儲けまくり)」と同発音で、自動車ナンバープレートでも高値がつく人気ナンバーだ。観光バブルに沸く三亜に、なるほどぴったりの番号かもしれない。
(池永達夫、写真も)